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私の内包物をつれづれと

二月大歌舞伎 三人吉三巴白浪 観劇感想

2023年2月15日、歌舞伎座にて三人吉三巴白浪を観劇。

三人吉三、序幕は派手さと様式美の小気味よさで白浪物でも縁起の良さそうな感じするけど、二幕・大詰まで見ると因果と柵で雁字搦めになる苦悩が描かれて重たい作品になるのが面白かった!先月に引き続き愛之助さんと七之助さんを見られて嬉しい。

 

序幕、七之助さんのお嬢吉三が鮮やかに百両と刀を奪う悪党ぶりを発揮して「こいつぁ春から縁起がいいわぇ」って言うシーン、三人吉三を初めて見る私でも待ってました!っていう感じになるなあと思った。

緊迫感のある殺し合いのシーンで晴れやかな祝いの音楽が流れてるの、現代の演劇の演出にも通じる感じがあって面白かったな。目の前のシーンや感情と真逆にも思えるギャップのある演出だからこそ、そのシーンや感情が際立つって作りはすごく好みで楽しかった。

お嬢吉三とお坊吉三の心中未遂シーンめちゃくちゃ良かったなあ、セーラームーンサイボーグ009を青春時代に浴びて育つと心中はすなわち愛なので。

三人吉三をきちんと見たの初めてなんだけど、元女形役者で女装して悪事を働くお嬢吉三はあくまでも盗賊をしやすくするために女装している男のキャラクターとして表現されてて、その上でお坊吉三との関係性は演技演出面では完全に恋人関係で描かれる。血の杯を交わした義兄弟という言い訳を用意してる部分はあるんだけど、歌舞伎の男女の心中シーンをまんまトレースした演出でエロティックな死の描写(心中未遂)を入れるし、クィアリーディングするまでもなく恋人関係として演技演出を作ってるのが良いなあと思った。

和尚吉三の葛藤、今の倫理観とはズレるからなかなか難しいんだけど、実際の血の繋がりよりも自分にとって濃く重い関係性を重視するって部分は結構好き。ひょんな事から義兄弟の契りを結んだ三人吉三の関係性が、実際の血の繋がりのある親兄弟よりもずっと濃く必死に守り合うものになっていくのが。

父が妊み犬を殺したことで子供が畜生道(兄妹で愛し合う)に落ちる、それもあって和尚吉三は血の繋がった妹弟を殺すことを決意するんだけど、動物への殺生が人間の生の営みを歪めるっていうのは先日見たNHKドラマ10の男女逆転大奥でも見られた宗教観だったな。

因果応報によって連鎖していく死。あんまりにもあんまりな偶然が複雑に絡み合って、義兄弟の契りを結んだ者同士が血の繋がった親の仇同士になって、それでも互いに庇い合い思い合い大切にし合う、悪党3人の絆。偶然であった3人の吉三の関係性がぐるぐると目まぐるしく変化していきながら、百両と刀がぐるぐると巡り巡るストーリーが面白い。

大詰、本郷火の見櫓の場、ものすごく見応えがあって楽しかった!お嬢吉三とお坊吉三、それぞれの大立ち回りが華やかで、お嬢は長い振り袖を結んで立ち回るし、お坊は戸板を使った立ち回りがすごかった!和尚吉三を逃がすため必死なふたりを阻む雪の表現も美しく、より焦燥を煽っていて良かった。最後3人が捉えられながらの見得を切る所で幕となるのがまた美しかった。

当時の宗教観が強く感じられつつ、それでもお嬢吉三とお坊吉三の関係性を特になんの説明もなく恋愛として表現するのは、むしろ言い訳をしがちな現代の演劇やドラマよりも今っぽいのかもと思った。まあ三人吉三の関係性が血の杯を交わした義兄弟というホモソーシャルな関係性なのでそこが言い訳とも言えるんだけれどね。