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十二月大歌舞伎 第三部『天守物語』観劇感想

2023年12月4日、歌舞伎座にて十二月大歌舞伎第三部の猩々と天守物語を観劇!

以前NHK平成中村座の特集番組をやっていて、その時に玉様が演出をされて七之助さんが富姫を初役で演じるという天守物語を見た。その時からずっと天守物語を生で見てみたかった。

 

第三部は『猩々』も『天守物語』もどちらも人あらざる存在と人間との交流を描いた幻想的な作品で、続けて見ていて楽しくどっぷりとその世界観に浸れて最高だった。猩々の気品と愛嬌、富姫や亀姫のゾッとする魔性と無邪気さと生死観、序盤の人間中心主義への冷淡な眼差しが良かった!

 

童子の通りゃんせの歌声と共に幕が開く。5人の侍女が天守の五重から白露を餌に秋の草花を釣り上げ、色とりどりの蝶の群れが舞い、かと思えば急に風が強まり当たりは暗く落雷が轟く、始まった瞬間に幻想の世界が広がっていてワクワクした。

 

玉様の亀姫がもう最高だった〜!!!富姫役で有名な坂東玉三郎が今このとき初役で亀姫を演じる姿、こんな一生に一度あるかどうかの配役見られて良かった〜!!!富姫と亀姫のやりとりがもう素敵で、あの坂東玉三郎七之助さん演じる富姫の妹分を演じる、バチバチに演じ切るのをこの目で見られて幸せでした。本当に人あらざる魔性の存在すぎて最高だった。

富姫様、大事な妹分が来るのに人間どもがうるさいって理由で気軽に白雪姫に天候を変えてってお願いして人間を物理的に静かにさせるの本当に好き、ちょっと夜長姫っぽいよね。

 

美しく気高くクールな富姫と、そんな富姫を姉と慕う愛らしく艶やかな亀姫のちょっとした会話の端々に、人あらざる別世界の存在であることを感じるし、親しい間柄ならではの互いの許容値を見極めたピリッとしたやりとりもあり、そんな中で微笑みながら頬を寄せ合う二人の美しさがこの幻想的な異世界観をより強固に見せてうっとりした。七五調とはまた違う独特のリズムによる台詞回し、言葉のテンポ感が心地よい。序盤の富姫と亀姫があまりにも好きなので、富姫……人間と恋愛なんてするな……ってなってしまう、図書之助は清々しく凛々しくかわいいかもしれないけど……。

 

富姫って人間の美姫の姿をしてるけど人間の倫理観では生きていない異形の存在で、亀姫や舌長姥や侍女たちとのやりとり含め、最初から人間中心主義のくだらなさや愚かしさ、辟易してる様子を体現してる。そこへ持ってきて図書之助は、人間でありながら富姫に敬意を払い、その人間中心主義批判を受け止め、けれど自身にできることできないことを正直に話す。富姫様が人間の男にメロメロしてるのやだ〜!って気持ちめちゃくちゃあるけど、富姫が一様にくだらないと眼差しを向ける人間世界の存在でありながら、図書之助が心根の清らかな見どころのある青年なので富姫が心惹かれていくのを見守るしかなく……。

 

序盤の富姫って理性がきっちりある上位存在って感じで良い。図書之助に今度ここに来たらもうお前を人間のもとには帰さないって言いながら返してやるし、常に上から肩を抱いてるし、死なせるには惜しい、獅子様に似た清々しい心根でこの私に向き合うおもしれー人間って手元に置きたがる。図書之助がパワハラ上司に理不尽に殺されそうになってるのを知って、人間の世界に帰るなずっとここにいろって引き止める富姫様、でも人間の世界に未練がある図書之助の心に気づいて帰してやる富姫様、武士の切腹が馬鹿馬鹿しくて大嫌いな富姫様、うう……好き。

 

序盤は少し不穏でおどろおどろしい幻想世界へ迷い込んだ雰囲気が楽しく、どんどんその世界観に引き込まれていくと、その先のラストではどこか清々しく天上の世界のような明るさが満ちていて、人間中心主義への冷淡なまなざしの先で愚かしい人間を置き去りに彼らは人の近づけない場所へ登っていくようだった。

 

天守物語、前回の中村座での公演ではシンセサイザーを用いたアレンジで上演したけど、今回の歌舞伎座公演では和楽器アレンジ版のドビュッシーの雲を使ったって話で、場に合わせて楽曲も変えて上演するのって良いなあ。同じ作品でも単なる再演ではなくその時その時でしか出会えないものになる。やっぱりおんなじものの焼き直しだけしてたって面白くないし意味ないよなあ、チャレンジングじゃなきゃ歌舞伎はとっくに廃れてる。伝統の継承も大事だし、玉様の富姫みたいに他の人にはできないと思われたものが(演じる側はプレッシャーかもしれないけど)きちんと七之助さんの富姫に生まれ変わっていて、繋がっていくことも変わっていくことも大事だよなあと思う。

十二月大歌舞伎の看板

十二月大歌舞伎 猩々の絵看板

十二月大歌舞伎 天守物語の絵看板