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劇団ホチキス「銭に向け叫ぶ2020」 観劇感想

2020年9月30日、東京芸術劇場シアターイーストにて銭に向け叫ぶ2020を観劇。

生の演劇の熱に久々に触れられて、楽しかった!

3つのストーリーが同時進行で交錯して、自分に見えてるものが本当じゃなかったり、見えない場所で知らない何かが気づかないうちに自分に影響を及ぼしていたり、その逆に自分が遠いどこかの誰かに影響を与えていたり、勘違いだったことに気がついたり、誰かのせいで自分が変わったりどうしようもなく変わらなかったり、他人に値踏みされる価値が何を持って価値があるとされ金額に変換されるのか、結局は自分ひとりではままならなず人や世の中への影響力によって勘定されているんだろうな。

以外ネタバレ感想

 

あらすじ
天馬大吉はアイドル。しかし人気に陰りが見え始め、事務所とも、デビューから献身的に支えるマネージャーともうまくいっていない。そんなある日、大吉は興味本位で、自分の価格を知る「値踏み次郎」というアプリをダウンロードする。するとなんと、値踏み次郎が実体化し目の前に現れたのだ!彼は大吉に四六時中くっつき、値踏みし続ける…。 一方、大吉の兄・中吉と弟・小吉は、実家で静かに暮らしていた。中吉はなにやら怪しい仕事をしていて、ストレスを抱える日々。家に帰ると嫁にあたってばかり。居候の小吉はその夫婦の様子が気がかりでしかたがない…。 時を同じくして、ある文房具メーカーでは新商品開発の社内コンペが行われた。そこで最優秀賞に選ばれたのは、地味な事務員の出した企画だった…。 三つの銭と愛と価値観の物語が複雑にからまり合い、物語は意外な方向へ!(HPより引用 http://www.hotchkiss.jp/zenimuke/)

ネットサーフィンって単語を古いと言い、人の価値を計算するスマホアプリが流行って、ヤラセ疑惑を晴らすために多方面からの採用をせざるを得なくなってるモンドセレクションがあったり、ネットで調べれば何でもわかるし何でもできるらしいし(コメディだからね)、割と現代なのではないかな?と思うような時代背景の割に、ファッションも登場人物の価値観も古くて(主人公やその兄弟はめちゃくちゃ田舎出身という背景はあるけど他のキャラはそうでもないだろう)いつの時代の物語なのか見ていて混乱した。2007年の舞台の再演ってことなのでそのせいもあるのかも知れない。

HPには究極の愛と銭の物語!!って書いてあって、その愛ってやつにあてはまるのは、たぶん大吉と値踏み次郎の関係性なのかなあと思った。あとは兄夫婦も。殺人未遂した社長夫婦や後輩アイドル、兄嫁を買おうとした弟は銭担当かな。

北村諒さんのクソ野郎なのになんかどっかで憎みきれなくて必ず誰かが助けてあげたくなっちゃう大吉も、町田慎吾さんの好きになっちゃった人にキュンキュンしたりその人に影響されてクリエイティブになってみちゃうチャーミングな役柄も結構好きだった。

これより下はけっこう愚痴っぽい感想なので、100%楽しくて最高でたまらなかった方は読まないでください。たぶん気分悪くなるので。






職場で自分より下と判断した女をいじめる女、酒を飲んで暴れて妻を怒鳴りつける夫、夫の趣味に無理解で見下しつつ新興宗教にハマる女、新興宗教は実は不法投棄で環境破壊して金儲け、その影響でそこで働いていた人の人体に障害が出る、自分より下と思ってた女に懸想する男に振り向いてもらえなかった女が逆恨みで暴れた上すぐ別の男に乗り換えて追っかける、女は専業主婦か派遣社員で父親や夫や男に尽くしてケアする要員、男は黙って働いて女子供を食わせてやってる、アイドルの兄の名を語り詐欺で金儲けする弟、兄嫁に惚れて金で兄嫁を買って自分のものにしようとする弟、殺人未遂に放火までやらかして職場の先輩を貶めた男を愛情たっぷりに許してやる先輩、男同士の美しい絆の表現につくされる愛情表現の言葉、自分に尽くす(一応惚れた)女に投げかけるのは照れとしての素気無い言葉、

楽しかったんだよ、面白かった。生の演劇の熱量すごいし、さすがホチキスって感じのテンポもいいし、マスクがあって良かったって思うくらい笑ったし。特に大吉と値踏み次郎のシーンはどれも割と気兼ねなくて楽しかったな。その分、こういう男同士の絆とかバディ愛みたいなのを描くために女下げてんのかなって、わたしが斜めに見てるだけかもしれないけどそういう表現もあったと思う。

普段ふつうに生きてて現実に目の当たりにしたらゲロ……って思うような偏見や差別的な物事や悲惨な事件をそのまま肯定的に明るく笑ってコメディにされると、プロのテンポや熱量や表現力で思わずアハハって笑ったあとに、あーなんで笑ってんだろってすごい醒めるっていうか萎えるっていうか現実に戻されるっていうか辛くなるときがあって、今回はそうだった。別に勧善懲悪にしろとか何かを解決しろとか求めてないけど、あーわたしが今生きてる世の中のクソみてえだって思うこと、生きづらいなって思うことって、他人の視点から見たら全然なんにも取るに足らない批判に値しない笑い事でコメディにしちゃえるんだなって疲れちゃう。フィクションと現実を混同するなみたいな言説あるけど、現実をどう捉えてるかって価値観がその人の生み出すフィクションに反映されることも、そのフィクションから影響を受けることもあって当たり前だと思うから、なんかしんどくなった。

ホチキス好きだったんだけどな、なんかだんだん今の自分の肌に合わなくなってきたのかもしれない。でも今のメンタルで見たからこんな愚痴愚痴した感想になったのかもしれない。楽しかったけど、ノイズがたくさんあって楽しみきれなかった。残念。

 

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