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劇団ホチキス「うらめしブギ」観劇感想

2022年3月19日昼、あうるすぽっとにて劇団ホチキス「うらめしブギ」を観劇。

加藤将とホチキスなんて絶対面白いじゃん!と思って期待通りに面白くて最高だった。主人公の南雨祈が、加藤将ってこういう人だよねっていう心地よい勘違いをくれる感じの純真で猪突猛進な役で、でも暑苦しいだけじゃなく柔軟で今っぽい俗っぽさがバランスよく入ってて好きだった。以下ネタバレ感想。

 

前回見たホチキス作品「シカバネアイズ」でも死を扱ってたけど、死にきれなさとか、唐突に命が途切れたあとにそれでも死んだ本人に選択肢や迷う余地を与えてく感じ、米山さんの生死観なんだろうなと思う。今回の「うらめしブギ」でも、その死にきれなさだったり、地縛霊や背後霊や付喪神みたいになった者たちを、その場所や人や物事への執着が愛なんだって描く。たった一人の娘のために楽しんでもらえるお化け屋敷を作ろうとするのも、日本中世界中の人を恐怖のどん底に落とすお化け屋敷を作ろうとするのも、どちらも愛情だって。まあ、子供に対して父親として向き合わず全く愛情を注いでこなかった父親が、突然気が向いて与える愛情なんてエゴでしかないし傍迷惑だし、それを愛と表現するのは父親を美化しすぎだけど。

不在による存在感ってあるんだなと思った。作中全くその実体および実態が登場しない「ヨミノクニオ」というお化け屋敷クリエイター。読野暦の父親で、加賀美大地の師匠、いないのに、いないから、ずっと劇中のそこかしこに存在が浮かび上がる。

主人公、妖精みたいなポジションと役どころだった。南雨祈は主人公なんだけど、主人公だけが唯一直接ヨミノクニオと関わりがない。職場の先輩は父親の遺したホラーハウスを盛り上げすぎず盛り下げすぎずなんとか"そのまま"を残そうとする(息をしない場所は死んでいくのに)。その実、父親に愛されていなかった・愛されたかった自分を持て余してる。ヨミノクニオのただひとりの弟子は、偉大な師匠にしごかれまくってそれでも食らいついて、晩年は迷走しまくっててもついていって、それなのに独り立ちするって時にもまともに声をかけてもらえなくて、きちんと弟子として愛されてたのかという不安を常に抱えてる。どっちもファザコンなんだよな、父親に愛されたかった子どもたち。そしてヨミノクニオの魂の分身である3人のおばけたち。唯一まったく関わりのない主人公が、死んだ人間に愛されたくて囚われ続けてるふたりのために奔走する。

主人公の南雨祈、人間が好きなんだなあって思う。南雨祈が来るまでのホラーハウスは死んだ人間の執着と、死んだ人間への執着とが渦巻いた、過去の遺物だった。次々と潰れたヨミノクニオのお化け屋敷から人形たちが引き取られ、お化け屋敷の墓場になっていた。

南雨祈が「恐怖の向こう側」を目指したホラーハウスは、生きている人間のためのホラーハウスだった。死んだ人間の未練と執着とにまみれたホラーハウスが、生きてる人間がこれから先をまた生きていくためのショーの場、エンタテインメントとしての虚構の場に変わった。部外者だからできることってあるよな。湿っぽくなりすぎず、さらっと、カラッと、朗らかに、そこに根付いてこびりついた死者と生者の間の妄執を、ぜんぶ愛だったってことで良くない?それで楽に生きていけるならそう思い込んでおけばいいんじゃない?って無責任に言ってあげる。本来は伝わってなきゃ意味ないし、まず本当に愛だったかもわからないけど、生きてる人間の納得のために、あなたはお父さんに愛されてたよ、あなたは師匠に愛されてたよ、あなたは娘の事も弟子の事も愛してたよって言ってあげる。正直ぜんぜんいい事じゃないけど、創作物の持つ優しい嘘で生きていく力が得られる人もいるから。しかしホチキスの舞台ってファザコンだな〜って改めて思った。

ホチキスの舞台は毎回濃ゆいホチキスメンバーの皆様の圧倒的なキャラに笑い転げてしまうんだけど、今回も月岡(山崎さん)ヴラド(齋藤さん)ランビー(小玉さん)の息の合いすぎたやりとりにずっと笑ってた!あと新沢(山本さん)もさよならさよならさよならって小ネタ出してくるし本当にホチキスメンバー濃すぎて最高だった。

ひさびさにしゅんりーさん見たけど、見るたびにいい役者さんだなあとしみじみ思う。私が初めて見たホチキス「あちゃらか」でもめちゃくちゃ良くて最高だったな。しゅんりーさんとホチキス、相性抜群だと思う。

観劇後にアフタートークがあったんだけど、チケット取った時はアフタートークあるって知らなくて、たまたま将さん・しゅんりーさん・柚来さんのアフタートーク回で色々話が聞けて楽しかった。ホチキスの超弩級なメンバーたちとガチンコで芝居するの、めちゃくちゃ体力使うんだろう。将さんもしゅんりーさんも、昨日が初日なのに今日すでに全身が変なところまでめちゃくちゃ筋肉痛って言ってて笑った。

ホチキス、開演前の客席で流れてる過去公演の楽曲を聞いてるときのジワジワテンションが上がってく感じ、ミュージカルでオケが鳴ってテンション上がるのとおんなじ感じでたのしいよね。あ〜あの公演楽しかったなとか思い出しながら今日の芝居を楽しみにできるのがいい。

死にきれないのも、地縛霊になるのも、背後霊になるのも、死んだ人への妄執に囚われるのも、居ないのにずっとそこに居るのも、全部愛ってことでよくね?って笑ってあげられるの、すげー生きてる人間って感じだし、人間が好きすぎるなあと思う。そういう主人公を加藤将が演じるの、個人的に納得感がすごい。私は彼の何を知ってるわけじゃないけど、人間のことが好きっていうオーラを出す人だから。

ホチキスらしい笑いにあふれる作品で、めちゃくちゃ楽しかった!

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