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劇団ホチキス 播磨屋ムーンショット 観劇感想

2023年4月9日、あうるすぽっとにて劇団ホチキス播磨屋ムーンショットを観劇。

 

腹がよじれるくらい笑って笑ってめちゃくちゃ楽しかった〜!笑い疲れた!ホチキス見たなあという充足感があって楽しかった。元気出ました。ネタバレ感想です。

あらすじ(HPより引用)

殺し屋が潜伏した先は、奇妙な住人と、うまい飯が集うドライブインだった…。

闇に潜む悪を専門に葬る暗殺者集団、「ナンバー」。名前を持たず、番号で呼ばれるアサシン達で構成された組織だ。その中でもNo.1の実力を持つと言われる「453番」に下されたのは”1000日殺し”だった。1000日殺しは、およそ3年の間ターゲットの近辺に潜伏し、相手を信頼させた上で暗殺を行う特殊な殺し方。453番のターゲットは、山奥なのに客足が絶えないドライブインで、豆腐店を営む初老の女性、播磨谷多鶴子(はりまやたずこ)だった。彼女の命を狙うべく、「シコミ」という名前を与えられた453番だったが、彼女の周囲には奇妙な住人ばかりいて・・・。

ホチキスが贈る、ヒューマン アサシン コメディー!!

話の大筋としては若かりし頃の播磨屋多鶴子が出る最初のシーンからある程度予想がつくんだけど、予想がついても何が何でも面白いからホチキスはすごい。そんなもん、そんなふうにうまくいくわけないだろ、みたいなのも強引に力技でうまくいかすし、それはすごく乱暴なんだけど笑っちゃうんだよな。播磨屋多鶴子が、心がたまに泣くくらいはいいけどポタポタずっと流れたら心の内側に鍾乳洞ができちゃう、内側がトゲトゲしたら痛くて苦しいって話をしてて、それは身近な母子へのおせっかいの言葉だったけど、自分のことでもあって、身寄りのない孤児を正義のための暗殺者に仕立ててはその暗殺者を人間として救おうとする結果的にマッチポンプみたいな事をしてる自分のことを、ずっと鍾乳洞がチクチク刺して苦しかったんだなって。

苦しくて悲しくて辛くて罪悪感とか贖罪の気持ちがどうしょうもなく溢れても、それでも笑っていいし喜んでいいし楽しんでいいし美味しいものを作っても食べてもいい。うるせ〜!!!痛いけど苦しいけどそれはそのままで全部飲み込んで笑ってたっていいんだよ!!!ってそういう乱暴なところがよかった。それでもやっぱり苦しくて、自分を殺してくれる暗殺者を呼んでしまう播磨屋多鶴子が好きだなあと思った。自分が落として自分がすくいあげた存在がそう簡単に死なせてはくれなかったのも。

自分が奪うばかりではないと知ることができたら、なにか救われた気になるのわかるなあと思う。本当は、基本的人権ってやつに基づけばただ生きてることそのものが誰にも侵されず保証されているはずなんだけど、役に立たないと何かを生産しないと許されないって思い込まされて生きてるから。それは単純に呪いなんだけど、そういうときにご飯を作るって行為はすごいんだろうな。美味しいものを作る大変さ、作って完成して食べて身になってくこと、誰かに振る舞って美味しいって言われること、そうやって段階を踏んで成就してくのは良いことだって感じられるから。許されないと思ってる彼らが、食べ物を作って食べて教えて教わってってそうやって生きてくのは、ただ生きていていいってことの訓練みたいだった。

ど頭のアクションシーンの照明がめちゃくちゃかっこよかった。まず最初のアクションシーンものすごくクールでかっこいいのに、最後のローションまみれのてんやわんやの破茶滅茶アクションシーンが面白すぎて最高だった。そのローションシーンは泡々って感じの照明でこだわっててそれも良かった(笑)死んでしまいたい播磨屋多鶴子と死なせたくない元ナンバーたちと殺害依頼を受けたノーナンバーの三つ巴の派手なアクション、本来ならシリアスだし緊迫してるはずなのに現場はローション相撲、生まれたての子鹿のようにプルプルしてるみなさんに大爆笑だった。

播磨屋多鶴子、小玉さんだいすき。声の抑揚からテンポから何からいつも大好きです。正義と贖罪と食べ物や子供への愛と、死んでしまいたい気持ちと、それでも美味しいものをつくっちゃうところと、ラブでした。

453番/シコミ、里中将道さんは今回はじめましてでしたが、生真面目でクールで任務遂行のために生きてきたのに、1000日間の潜入捜査のために大豆に官能小説読み聞かせしたり、足りない語彙を駆使して真摯に大豆に向き合ったりしながら、陽気なはっちゃけ兄ちゃんになったのめちゃくちゃ面白かった。大豆との対話の中で好みが似てきたのかかわいいもの好きが開花してるのも好きでした。

803番/ヤオミ、太田将熙さんはゴールデンレコードの時にはじめましてでした。ちょっと生意気そうな後輩で、憧れの強くてクールな先輩の背中を追いかけてついに実力も上がり、同じ1000日殺しの任務についたら憧れの先輩が……???誰この人???っていう戸惑いが良かった。あとローションまみれのシーンでぺぺか!っていうの笑った。あと大豆に太宰治セレクトするのもフフってなった。

沢渡潮、校條拳太朗さんの劇的ビフォーアフターすごかった。生真面目な警官がウェイウェイしたコミュ力おばけの警官に大変身、すごかった〜!問題解決に武力じゃなくてコミュニケーションを選ぶってのは強いなあと思う。ローション相撲がコミュニケーションなのかはわからないけど(笑)

九十九、齋藤陽介さんと、五百井、野田オリジナルさんの元ナンバーふたり大好き。ホチキスの怒涛のノリを軽やかに乗りこなしてく緩急の効いたやりとりが気持ちよく、自分達の正体を隠しつつシコミを播磨屋多鶴子と共に育てていく情の深さも、テンション高めの九十九とちょっとおっとりボケ気味の五百井のバランスが良かった。ふたりの正体がバレるシーン、かっこよくてグッときました。

123番/ヒフミ、毎熊宏介さんテニミュぶりに見たけどもいい役どころだ〜!って思った。本当は全部知ってて暗殺者を人間として更生させる播磨屋とグルだった。人殺しの指示を出しながら、そこから抜け出させる計画に加担する、播磨屋多鶴子と123番はある意味痛みを共有してるんだなあ。だから播磨屋が死ぬためにノーナンバーを雇ったと知って初めて普段の笑顔を崩して動揺する。

上手井戸、丸山泰右さん、最初は孤独のグルメしてる普通のサラリーマンだと思ってたら、暗殺者殺しの暗殺者ノーナンバー!かっこいい〜!不穏な空気で播磨屋多鶴子と話してるシーンもアクションシーンもかっこよかったのにローション相撲で持っていかれましたし、その後は大豆に翻弄されてて笑いました。

横峯家のみなさま、父十三・山本洋輔さん、娘くに・内村理沙さん、孫もも・ゆでちぃ子。さん、血の繋がらない父娘ってだけでなく娘を置き去りにした母親の居場所を勝手に調べて高校卒業時に"本当の"母親のところへ行けって言うの、善意100%でもマジで無神経すぎるんだけど、そのシーンできちんと観客の気持ちを代弁させる九十九と五百井のツッコミが入るので良かった、入らなかったらもっと苛立ってしまったと思う。結果として母親のところへ行かず自力でなんとかしようと風俗で働きシングルマザーになって、コロナ禍モチーフの感染症の影響で困り果てて地元に帰って来ることになるのも、すごい身につまされてしまう。

現実のコロナ禍での3年間の苦しみがある前提で、演劇の中での3年間の変化をいいものとして描くのは希望を描きたいってことなんだろうな。暗殺者としてのシコミに、シングルマザーのくにへお前の武器は何だ?と問い、幼い娘がいるシングルマザーとしてその武器である娘をきちんとメンテナンスしろって言わせるの色々際どいんだけど、見方によっては弱者が受けられる社会制度って色々あるわけで(そこにアクセスしにくい社会どうにかしろよと思うが)武器はうまく使えよってのは乱暴だけど生きるために利用しない手はないんだよね。ギリギリで生きてる母子のコミュニケーション不足を愛情不足として糾弾するのに、十三のくにへのコミュニケーション不足(高校卒業と同時に家を追い出す)を不器用という言葉で甘やかすのはどうかと思うけど。

劇団ホチキスならではの破茶滅茶でケレン味たっぷりで人情味のあふれるコメディー、すごく楽しかった!コロナ禍の3年間と暗殺者の1000日殺し任務の3年間を重ね合わせて描いてるところとか、結構、今だから描ける演劇をって気持ちとか、綺麗事でも希望を描きたいって気持ちが伝わってきて、演劇ってホント生物だなあと思った。