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パラドックス定数『四兄弟』観劇感想

2023年3月24日、シアター風姿花伝にて、パラドックス定数『四兄弟』を観劇。

すごく難しかった。これは何かのメタファーなんだろうと思いながらズバリ何かという答えにたどり着く教養もなく、もっと知識があれば楽しむ幅も広がった気がする。元ネタはロシア革命やロシア史の話なんだろう。そして今現在のロシアウクライナ戦争の事も繋がって描いていた。でも逆に歴史のことが全然わからんので気軽に楽しめたってところもありそうな気がしてる。わかってる人の方がこの悲劇ではあるがそこここに漂う喜劇っぽさを気に病んでしまうような……。

恐怖と暴力で自分達を支配し続けてきた父を殺した四兄弟の話。

四兄弟は父親からの暴力と格差による苦しみから、平等を求めるようになる。始まりの長男がその教えを赤いノートにする。そして長男が撃たれると、次男、三男へ、四男へとノートが受け継がれていく。

父殺しから始まった自分たちは暴力を否定しない、できない、そうしてしまうと自分の存在を否定することになるから。本当にそうだろうか。四男は、強いものから弱いものへの暴力は否定させるべきだが、弱いものから強いものへの暴力は抵抗であり認められると言う、長男は暴力は暴力であり同じだという。長男は性善説の人だなあと思った、力の勾配に鈍感だ。

ノートが次男へ移る。父殺しの銃で民を脅し従わせる。恐怖と暴力による支配と富の強制的な再分配、工業化による農業の衰退で飢えていく時にも、長男は理想のためまだ我慢できると耐えていた。三男は次男に強要されて鍋や薬缶から武器を作った、そして四男には小麦を作れと言った、勝利のためにと。

三男はアイドル的に振る舞う、愛される、信仰による支配、戦わないことでコラボしようぜと海の向こうの世界と交渉する。交渉は失敗、相手国の考えを受け入れてしまったことに後悔し、相手国からの攻撃に迎撃してしまう。

四男は兄達の行いにどれだけの金がかかったかを問う。金とモノの動きを整えようとする。彼の畑には小麦とともにヒマワリがある。ヒマワリはウクライナの国花なんだよな。

ラストシーン、四兄弟は離別する。三男が父殺しの銃を次男へ、戦争のために作った銃を長男へ渡す。長男と三男が去り、四男もヒマワリの油を搾りに行く、次男だけがその場に残り、父殺しの銃を抱えたまま自分がこの国を強く大きくすると決意する。

 

四兄弟はロシア史の擬人化であり、資本主義や共産主義社会主義)などの擬人化であり、血肉のある兄弟でもある。生身の兄弟としての情や愛嬌や憎めなさと、歴史上の政治活動や社会思想としての在り方が混ざり合うと、若干の危うさを感じて戸惑った。有識者の感想を聞きたい。現在のロシアウクライナ問題とも絡めてあって色々と考えさせられた。正直私は低学歴で歴史にも興味がなくいい歳まで生きてきてしまったので、人間味の方も含めて楽しめてしまったけど、詳しい人はもっとモヤモヤしたのかな?とも思った。

あと、四兄弟の中で赤いノートにある原初の考え方が、すべての人が良い人で我武者羅になれないと成立しない社会の作り方をしていて、ここでは私は生きられないなあと思った。社会が、良い人も悪い人も、可愛げがある人もない人も、役に立つ人も立たない人も、頑張れる人も頑張れない人も、生きていていいと言ってくれる場所じゃないと、平等に人権のある場所でないと。

四兄弟、面白いけど気軽にすすめられるか?というとめちゃくちゃ気軽にはすすめられない。戦争描写や殺害を含む暴力行為の表現もあるからストレスになる人もいるだろうね。というかその点はHPで書いておいてほしい、会場行ってから知るのでは遅すぎると思う。チケット買う時点で知りたい情報でしょ。ただ、ロシア史の擬人化や社会思想の擬人化をした四兄弟の悲喜劇のラストで、現在のロシアウクライナ問題を絡めてると感じる作りになってて、今この瞬間に見るべき演劇だなあとは思った。