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私の内包物をつれづれと

八月納涼歌舞伎 伽羅先代萩 観劇感想

2019年8月20日、八月納涼歌舞伎第一部の伽羅先代萩を観劇。

ここ最近歌舞伎はノーチェックだったのだけど、チケット松竹のメルマガで中村七之助さんが政岡を演じると知ってこれは見なければ!とあわててチケット取って見に行くことに。こういうとき割とフットワークが軽くてえらいな自分と思う。

七之助さんの政岡が本当に素晴らしかった。以前先代萩を観劇したときの玉三郎さんの政岡とはまた違った気品、ギリギリで保たれていた乳人としての自分が崩れ落ちる瞬間の哀れさ、無情さ、悲しくてめちゃくちゃ泣いた。玉三郎さんから指導されたという飯炊き(ままたき)のシーンもとても美しかった。 心の底から、見に行ってよかったなあと思った。

飯炊きのシーンの所作は役者自身のお茶の腕前がそのまま反映するらしいので、大名家の乳人にふさわしいあの気品がありつつも手慣れた仕草は七之助さん本人の腕前も含まれたものなんだよなあと思ったりした。

以前先代萩を見たときも思ったけど、千松も鶴千代も本当に健気でいじらしくて、腹が減ってひもじいのにこんなに幼いのに自分の立場と生き方をよく理解している。だからこそ、千松が鶴千代の身代わりに八汐に嬲り殺される様が絶望的で、それを切り抜けたあとの政岡の抜け殻のような痛々しさが泣けるんだ。
政岡が千松の亡骸を抱きながら、でかした主君の代わりによくぞ死んだ、いつも言い含めていたようによくやったと、大げさなほど褒め称えて、そのヤケになったような空元気さを見ると、千松の得意げに笑う姿がまた見たくてこうしているんだろうと、ボロボロと泣けてしまった。このあまりにも悲しいシーンで、それまでの千松と鶴千代の愛らしいシーンや、政岡がどれだけふたりを厳しくも強く慈しんできたかを思い出す。千松が飯炊きをのぞきに来たのだろうと思い、これと叱ったら鶴千代だったときの政岡が七之助さんの政岡ならではのどこか愛らしさもあって、こんな不憫な生活の中でもささやかな幸福と豊かな愛情のやりとりがあったことがより悲しみを深くさせる。

八月納涼歌舞伎では仁木弾正の出番は最後の一瞬だったのだけど、八汐と同じく松本幸四郎さんが演じられていて、その怪しげて美しい出で立ちの悪しき妖術使いを最後まで見てみたかったなあと思った。

歌舞伎ひさびさに観劇したけど、やっぱり面白いなとしみじみ。生活が忙しくて感想を書く余裕がなかったけど、七之助さんの政岡が素晴らしかったことをあとから思い起こせるように雑だけれど書き残しておく。

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