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私の内包物をつれづれと

舞台『魔法使いの約束』第1章 観劇感想

2021年5月27日昼、銀河劇場にて舞台『魔法使いの約束』第1章を観劇。

まほやくの舞台、キャスト発表の時にテニミュで顔知ってる役者さん多いな〜(7人もいる)!スタッフ陣に浅井さやかさん・ほさかようさん・本山新之助さん!?ゲームやってるし見に行ってみよ!ってミーハー根性でチケット申し込んでみたら、ミーハーで良かったなあと過去の自分を褒めたくなる楽しい舞台だった!

最近自分のメンタルコンディションと作品の相性があまりよくなかったりで、心置きなく楽しかったと思える観劇ができず(作品のせいではない)、久々に晴れ晴れと楽しい観劇体験だった。

以下舞台とゲーム両方のネタバレがある、とりとめのない感想。舞台を見て、ゲームだけのときに思い至らなかったキャラクター像に目を向けられたりもして面白かった。

追記→第2章の感想はこちら(https://inclusionbox.hatenablog.com/entry/2021/11/21/094033

 

役者さんたちみんなキャラクターのビジュアルをゲームにとても寄せてあって流石だなあと思った。声までかなり寄せていて(当然、必ずしもそこまでする必要がある訳じゃないのに)違和感なくそこにキャラクターがいる事を感じられた。私の2.5舞台の主成分がテニミュ最遊記歌劇伝なので、衣装とウィッグの華やかさ・カラコンの艶やかさにゴージャスだなあと気圧された。まほやくのTHEファンタジーな世界観が、まず役者の身体に投影されていて、それをハリボテにしない役者の演技が世界観をリアル側に引き寄せてくれる。

舞台装置も面白かった。左右に階段のある背の高い大きな台と、その前方に同じく階段のある少し小さな台のふたつがかなり効いてて、場面によって大胆に移動させながらごちゃつきやすいキャラクターの多さを高低差できれいに魅せてくれるし、ほうきで飛ぶシーンどうするのかな?と思ってたけどこれもこの台であっさり解決してた。映像演出もたくさん駆使されててきらびやかな世界観がそのままそこにあるし、ゲームで馴染みのある魔法陣が目の前に浮かぶとテンションが上がった!場面転換もスピード感があって、賢者が見知らぬ異世界に振り回される戸惑いと混乱を壊さないでいてくれる。あとアンサンブルの方々の活躍がすごい!厄災の表現すごく好きだった!抽象的でおどろおどろしい衣装を身にまとって身体表現で魔法使いたちに襲いかかり翻弄して、そこに照明や映像が投影されて、見応えがあった。騎士団も前の賢者の表現もアンサンブルの方たちだし、舞台の世界の根幹を担ってるなあと思った。

今拓哉さんのヴィンセント様が歌うますぎて圧倒された。とりわけ歌要素のある2.5舞台の場合、歌がうまいだけでもキャラクターの強さがある程度立証される所があるので最高だった。(演技と歌がシームレスであればなおさら。歌がうまいだけで演技と乖離してるとただ悪目立ちするのであれだけど。)虎視眈々と自分がのし上がる為に画策するヴィンセント様、強キャラに見えてくれなくちゃ困るので、歌はもちろん存在感もキャラクターとしての在り方もとっても素晴らしくて舞台がピリッと引き締まるなあと思った。

あと矢田ちゃん、安心と信頼の矢田悠祐という感じだった。去年のアルジャーノンでもその前のハムレットでも思ったけど、たまたま出会う舞台でこの人いつでも期待を裏切らないでくれるなあと嬉しくなるのだけど(ファンの方は幸せだね)、ファウストもとっても素敵で嬉しかった。キャスト発表時はめちゃくちゃ強いファウストになっちゃうのでは?と思ったりもしたけど、繊細で影があって傷だらけで人間を恨んで呪い屋にまでなって、それでも清廉さを失えない美しい人を描き出してくれた。(そういえば矢田ちゃんは顔も美しいんだった、紫のカラコンめっちゃ似合ってた)序盤の全員で歌って踊るメイン曲のときのフォーメーション、ファウストのシンメがシャイロックで、清純派とお色気系がシンメなんて、こんなのいいんですか!?ってドキドキしちゃった。ファウストがアーサーと握手をしたところ、舞台だけ見てたらわからないシーンだけどまほやくやってる人はあのシーンで泣いてしまうのでは?私はそこにいないはずの、もうどこにも居ないはずの(あるいはファウストの中にしぶとく住みついている)アレクをぶん殴りたくて胸が苦しくなった。アーサー自身は悪くないのに、ただ何も知らないだけなのに、その無垢な無知さをほんの少し責めたくなった。アーサーはいずれ必ず知らなければならないと思う、自分の祖がどんな残忍な過ちをしたのか。なんかすごい長々書いちゃったけど、いつもながら歌もめっちゃうまくて気持ちのいい人だった。

ヒースクリフ役の加藤大悟さん、とってもかわいかった!まほステの歌の中で一番好きで印象に残ったのがおじやの歌なんだけど、その時のヒースと賢者めちゃくちゃ可愛かった!今作でのヒースは何度でも言うがひたすら可愛く、自分を守って倒れたファウストへの献身がメインだった。この献身が真摯であればこそ、このあとファウストがきちんとヒースの先生になっていくんだよなあと思う。礼儀正しくて引っ込み思案ででもこれと決めたら頑固で高潔な彼の抱えるかなしい歪さを、今後まほステ続編で描かれていくのが楽しみだなあと思う。東の魔法使いたちがとっても好きなので、早く全員がそろってる姿をみたい。

カイン役の岩城直弥くん、ものすっごくカインだった!(平古場凛ぶりの岩城くんだったのでギャップがすごかった)カインって私の理解から遠い人なんだけど、ゲームで感じていたその遠さを彼のカインからも感じて、自分の中で勝手にめちゃくちゃカインだなあという納得があった。光り輝く正義感と忠義心と、迷いのないまっすぐさ。オーエンから目をえぐられてその痕跡がまざまざと自身に残っていても欠片も澱んでしまわない所が、その潔癖な精神がちょっと怖くてよくわからない。不気味だなあと思う。

アーサー役の北川尚弥くん、ひさびさに見たけどセリフの言い回しに独特のクセがあって懐かしかった。まるで希望の象徴のように、アーサーの登場で一気に物語が反転する様子からしてすごいんだけど、おとぎ話の主人公みたいな純真無垢な王子様。正直ゲームだけやってた時は漠然と怖いキャラクターだなと思ってたんだけど、舞台を見ていて何となく輪郭が見えた気がしてうれしい。無知で無垢で無鉄砲な理想主義者、オズへの思慕だけが人間(子供)らしく見えて、そうあれるのは彼がすでに捨てられた命で拾われた命だからかもしれない。ゲームの方のメインストーリー第一章のタイトルが「あなたと友人になれたら」、丁度この感想を書いてるときに更新された1.5Anniversaryのストーリーでアーサーが最後に言う言葉が「出来たら、私たちの友人になってください」だった。物語の根幹の、綺麗事を理想を掲げ続ける役割を与えられた王子様なんだろう。まだ少年のアーサーにかける期待としては重すぎるけど、私はアーサーに自分の祖が犯した罪をきちんと知ってほしいし公表してほしいと思ってる。無知でいられれば絢爛であるグランヴェル城が彼にとってどれほどの負の遺産かと思うとかわいそうだと思う。その上で、私に理解不能なほどの理想主義者でいてほしい。

オズ役の丘山晴己さん、オズらしい淡々としつつのったりとした喋り方がいい。ロングのポニーテールが似合うビジュアルが強い。まだストーリー序盤だから魔王然としてて、これから先オズのそうではない部分がもっともっと見えてくるのが楽しみで仕方がない。オズが自分の大切なものを大切にする方法がわからなくて、遠ざけるのが一番だと考えてしまうところが切ないんだけど、アーサーはオズよりもオズを信用しているし、年若く向こう見ずな中央の国の魔法使いたちにグイグイ来られて翻弄される姿を早く見たいなあと思う。

ブラッドリー役の中村太郎くん、めっちゃ久々に見たけど単純にかっこいい。長身でスタイルが良いから長銃を構えるのがとてもよく映える。スノウとホワイトとのやりとりが小気味よくて楽しかった!舞台オリジナルの、ファウストと歌で殴り合うみたいなシーンも見応えがあったし「出されたものは食え」って怒るところに、元相棒の存在が感じられて早く出会ってほしいなと思った。ブラッドリーは自分を強者だと思ってるのはオズと同じなのに、自分のそばに置くほど大切な存在から大切にされるのが下手だったしその気持ちに対して無理解なんだよな。

スノウ役の奥田夢叶くんとホワイト役の田口司くん、つい最近テニミュで見たばっかな気がしてたけど時がすぎるの早いな!かわいい〜キャッキャッ!って正面切って言わせてくれる双子先生を演じてくれてうれしい。あのふたりのドロドロしたところは垣間見える程度で描かれてたけど、これから深堀されるのか気になるな。相似形で生まれて何もかも同じであるのが当たり前だと思い込んで生きてきて、だから相手が自分と違うという当たり前のことが認識できず許容できず歪んだふたりが、片割れがいなくなっても無理矢理にそばに置いて、そばに居続けるために距離を置くのは、スノウとホワイト以外の人たちならば生きていく中で自ずと学んでいくはずのことなんだろうと思う。キャッキャッのときのポーズとか、容姿が子供らしく可愛らしく見えるよう身体を巧みにコントロールして全力で演じてくれるおふたり、素晴らしかった。

シャイロック役の山田ジェームス武さん、とても美しいシャイロックで動揺してしまった。まほステ制作が決まった時は(壇蜜みたいな若手俳優いる?)と話題になってたけど、何も心配いらなかった。賢者に紋章見せるシーン、エッチなお兄さんすぎてハラハラドキドキした。魔法使いたちみんなに言えることだけど、人となりや身のこなしがキャラクター毎にまるで違うわけで、シャイロックシャイロックらしさというのを声色や手足の運びや表情で表現していて、すごいなあと思う。自身の美意識に反する魔法科学を軽蔑しながら、その魔法科学を生み出したムルを友人に持ち、厄災に恋い焦がれすぎて魂が砕けて子供のようになったムルを育て直しながら、その行為自体がありのままであることを愛するシャイロック自身の美意識と反する行為だと思えなくもなくて、自覚があるのかわからないけど複雑に矛盾を抱えてるキャラクターだし、今のムルはシャイロックのその矛盾を愛好してるのかもしれない。

ムル役の橋本汰斗さん、アクロバティックな軽い身のこなしがすごかった!元ムルと今ムルの違いも楽しいなあ。元ムルの夜空柄のマント姿、とっても好きだった。ムルの無邪気な子供のような猫のような自由気ままに見える様を身体表現で魅せてくれるのすごい。無邪気な子供のようだと思わせながら、無邪気なだけとは思えない問答を迫ってくるムルのおそろしさが好きだ。どこまで意図的で、どこまでがそうでないのかわからなくて、なんで?どうして?と問われた側が自分のあり方に疑念を持ってしまう。固定観念ステレオタイプ、差別、正しさ、美しさ、愛、憎しみ。「この世界の真実を、あなたに見つけて欲しい」元のムルが賢者に言う言葉だけれど、今のムルの無邪気なようで真意の見えない問いかけは、かつての彼と同じように世界に疑問を投げかけ続け真実を探っているようにも見える。ムルは物語にとってそういう役割なんだろうなあと思う。

賢者役の新正俊さん、異世界に翻弄されまくる姿やヒースと一緒におじやの歌を歌って踊る姿がとっても可愛かった!賢者は見知らぬ世界のなかで出会った魔法使いを信じたり信じきれなくて疑って、それでも信じたいと願ったりするお人好しの人間。考えて迷ったりするけれど根拠もなく信じたいという願望に従うことができる。魔法は心で使うから、魔法使いにとって賢者にこんなにうってつけの人間はいないんだろう。自分の常識を疑って、世界の不均衡をまっさらな目で見て誰に言われるでもなく気がつける優しい人でいてほしい。かわいいって日本語は愛す可しと書くわけで、彼の世界と初めてであったばかりの無垢さをかわいいと思うし、例えば世界に対して無知でなくなった時にもそうあってほしい。

感想というよりだんだん願いのようになってしまった。第2章の上演が決まったようなので、続きも素敵な作品になってほしいなあと思う。これ以下は感想じゃなくて愚痴ですので気分を害したくない人は読まないでください。

 

 

 

私は一度まほやくから離れた人間で、舞台化でまたログインし始めたので正直なところファンというほど熱心ではないし、ゲームを始めた頃ほど作品世界の倫理観(を作り出した側の人たち)を信用してない。人と人との絆を、心をつなぐストーリーを面白いと思ったし優しいと思ったし好きだと思った。でもまあだんだんと色々思うところもあった。国ごとに住む人のステレオタイプが設定されていて(ゲームのわかりやすさの為に必要だった事はわかる)、物語やキャラクターが明らかに差別を題材にしながら差別を仕方がないことのように理由付けしてしまえるような、構造的差別問題ではありえない(マジョリティが考えた架空の差別だなと思ってしまう)設定があり、差別と迫害を受けた存在を加害側が歴史修正して美化したストーリーを国をあげて語り守っていたり、金髪碧眼の美貌の大貴族子息の厄災の傷が黒豹だったり、正直なところ差別問題を扱う手付きが危ういなあと思う。でもファンダムの中でそういう指摘をしてる人もいてちょっと安心してた。
その後、まほやくのターゲット層についてコリーが炎上したときの(それそのものにも非常にガッカリさせられたけど)ファンダムの反応、好きな作品が物語の中で差別を扱ってて、好きなキャラは被差別者で、同じ作品を好きでただ別の考えを持ってるだけを人を、とても気軽に差別的発言で傷つけることを厭わなかった。当然そういう人ばかりじゃないだろう、けど、しんど、ってなってやめた。
フィクションの世界を楽しんでる人が、フィクションの世界を生み出してる人が、なんでその世界の存在を、影響力を、軽んじてしまえるのかよくわからなかった。

舞台、楽しかったし、キャラクターみんな素敵だった。きらびやかな世界観、素敵な楽曲、熱量あふれるパフォーマンス、安くないチケット代払って電車に乗って観劇して、良かったなあって思えた。好きだった部分を思い出した。

現実は毎日毎日どこでも差別の嵐だ。とある法案が「差別は許されない」という文言が加わったことに慎重論が出されて了承が見送られたり、ヘイトスピーチが野放しにされて人が死んだり、クリエイターやその信奉者が表現の自由だポリコレ(笑)に屈したら面白いものが作れなくなると言って差別を冷笑したり。正直なところ現実だけでお腹いっぱいで、エンタテインメントでくらいフィクションでくらい正義の反対はまた別の正義だとかくだらない事を言わないでほしい。差別は許されないなんてこと、当たり前に言ってほしい。

舞台はメディアミックスだから、原作ゲームの通りである必要はないと思ってる。ゲームよりも後に世界にコンテンツを発信するんだから、原作よりももっと世界に優しく寄り添った面白い作品であって欲しいと思う。

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