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私の内包物をつれづれと

舞台パタリロ 霧のロンドンエアポート 観劇感想

2021年1月30日、銀河劇場にて舞台パタリロ 霧のロンドンエアポートを観劇!

久々に極彩色のエンタメに触れて心が嬉しくて泣きそうになった。思わず笑っちゃうようなギャグも、情感たっぷりのシリアスシーンも、キャラや世界観をふくよかに表現する歌唱やムーディーなタマネギ部隊も、パタリロに来た〜って感じで最高だった。千秋楽の配信も見ちゃった。

霧のロンドンエアポートはバンコランが主演と言ってもいいほどフィーチャーされたストーリー。前作と比べパタリロ役の加藤諒くん以外がごっそりキャスト変更となっていたが、まずは加藤諒くんという柱がきちんとそこに立っているという安心感があり、またこのストーリーの為に選んできたと感じるほど合うキャスティングおよび合わせた小林顕作さんの演出でいい意味で違和感なくすんなり世界観に入り込めてよかった。というか、このブッ飛んだお耽美シュールギャグの世界観をよくもこんなすさまじい再現度で表現できるなあと改めて新鮮に驚いた。

以下、非常にとりとめのない感想とかキャストについての雑感とか。色々考えながら書いてたらダラダラと読みにくい文章になってしまった。

 

バンコランをはさんでデミアンとマライヒが存在することで、バンコランのトラウマや、与えて欲しかったものや与えたかったものの輪郭が見えてくるお話だった。

幼少期のバンコランが5ポンドで男に身体を売り、その金を母親に渡してくれと願った。幼い子供が自分売って母親に金を渡さなければならなかった状況と、その後スパイ養成所に入ってデミアンに出会った事、今考えると悪いことが立て続くもんだなと思う。

プレイボーイのデミアンと出会ってさっそく手を出されるバンコラン、劇中では普通にサービスお色気シーンのような感じでセックスしてたけど(立てたベッドが登場したのは笑った)、うわー傲慢お清めセックス!トラウマを抱えた性被害者に二次被害デミアン最低!!って怒りでメラメラしてしまった。(昭和かよ!って思ったけど原作昭和だった)でも原作のまま男同士のセックスを普通に舞台上で描写したのはよかった。

トラウマを塗り替えるようにセックスした後、君が手伝ってくれる?と問うバンコランに、自分で自分を克服するんだと言うデミアン。バンコランの甘えるような儚げな声やまなざしに、ああまだこんなに子供じゃないかと感じた。

ひとりスパイ養成所に残されたバンコランはまるでデミアンのようなプレイボーイの振る舞いをしていくようになる。類まれな眼力で少年たちを次から次へ誑かす、デミアンをなぞる様なその行為は、良く言えば自分の魅力を発揮してるのかもしれないけどなんだか自傷行為みたいだった。しかしバンコランの眼力ソロソングはめちゃくちゃ楽しかった!演じる宇野結也くんの眼力がすごいので説得力増し増しだ。

任務から戻ってきたデミアンは麻薬で身も心もボロボロで、バンコランが面倒を見ることになる。デミアンの心を元に戻せるのはバンコランしかいないって言われていたけど、必要なのは適切な治療だよなあ。バンコランは愛で彼を救いたかったのだろうけど、愛ではどうにもならない。

唐突に現れたエゾババンバとサツマジジンジは笑いすぎてなんにも覚えてない。あとさっきまで歌姫してた人が木になってたりもした気がするけど記憶がない。笑いすぎたwww

パタリロと共にタイムワープして、過去のバンコランが少年たちを誑かす生活を垣間見たマライヒ。嫉妬に燃えてスピーカーに足をかけてシャウトしながら歌うシーンが最高だった!前作スターダスト計画の佐奈ちゃんマライヒは、ホットパンツ履いて自分の愛らしさを武器に自信満々グイグイ誘惑していくタイプのマライヒで、美少年キャットファイトがとても似合ってて最高だったんだけど、強かさだけじゃないどこか憂いや影のある後藤大くんのマライヒは今作にものすごく合ってた。

デミアンがまだ麻薬に溺れているのを知りつつ、バンコランの大切な初恋の人だから確証が持てるまで黙っていてほしいと、嫉妬深い自覚もあるマライヒ自身がそう願う。不安で、でもバンコランを信じたくて守ってあげたくて、あんなに嫉妬深いのに自分を押し殺す。マライヒの不安そうな表情や寄る辺のない声の儚さが、なんだか少年時代のバンコランに似ている気がした。

一番冒頭のシャルル皇太子の結婚式のシーン、麻薬密売を国家レベルで行っている公国の"皇太子"と"デミアン"どちらも同じ役者(川上将大くん)が演じる事で、観客目線での間接的な縁が生まれ、デミアンが今なお麻薬に侵されているっていうことを示唆してる様に見えるの演劇的でいいよなと思う。原作のソ連のくだりが麻薬シンジケートに変更になってるから、デミアンがこの公国と繋がる展開になるんだな。

過去のバンコランを見て嫉妬と不安に駆られ飛び出したマライヒ。結局お金がなくてMI6のバンコランの部屋の現金を目当てに忍び込むのすごい豪胆で笑っちゃうんだけど、そこがマライヒの可愛いところだなと思う。

ライヒがバンコランの部屋でデミアンに自白剤盛られて陵辱されたあと、バンコランがマライヒに対してとても誠実だった(お清めセックスとか微塵も考えない)のって、バンコランもまた性被害者としても一面があるからこそなのかな。

デミアンへの怒りを爆発させるバンコランは「以前のデミアンじゃない、薬で卑劣な真似をする奴じゃなかった」って言うけど本当に?トラウマで弱った心につけ込んでセックスしてきた男が本当に卑劣じゃない?って思っちゃった。バンコランが自分で自分を傷つけたい時に、優しくひどく官能的に傷つけてくれる相手だったから美化してしまうのかもしれない。

逃亡のためにエアポートに来たデミアンと追うバンコランのシーン。立ち込める霧の表現が素敵だった。単純にスモークを焚くんじゃなくて、部分的に垂らした白い幕と映像投影と照明の効果で濃霧が舞い込むエアポートを魅せる。

エアポートでのアクションシーン、長身美形ロングヘアの男たちが銃撃戦したり殴り合ったりするの華やかで見応えがあって最高だった。長い髪やコートの裾がアクションにあわせてはためいて、目の保養だ〜!ってなった。

エアポートに駆けつけたマライヒが「あなたが死ぬときは僕も死ぬ時だ」って言い切って、そんなマライヒに「いいのか?」って問いかけるバンコランは、タイムワープで見たあの幼いバンコランだった。強くないと生きてる意味がないと思いつめたように言ってた少年時代のバンコランに、デミアンはそんなことないって言わなかった。手伝ってくれる?と聞いたとき、自分で自分を克服するんだって言った。デミアンとマライヒはこんな所も間逆だ。

戦闘時デミアンがバンコランに「なぜお前はそんなに美しいんだ」って言うから、お前の自制の効かなさを相手のせいにするな!!!ってまたメラメラしてしまった(笑)美しいシーンだし切ない展開として描いてるのはわかるんだけど、怒りが出てしまった。デミアンは薬物依存の被害者だけど、その後麻薬をさらに弱い者たちに広める加害者になってしまってるし、バンコランとマライヒに対してはずっと性加害者だからな。

デミアンの造形は被害者が加害者になる物悲しさを感じさせるんだけど、バンコランがデミアンの行動を踏襲してしまっている(自分の性的魅力によるイニシアチブで安堵を得る)のを見ると、デミアン自身がバンコランのIFとしての存在なのかもしれないと思った。デミアンという過去の大きな未練と誘惑を断ち切ることで、デミアンと同じ末路を辿らず分岐した。

バンコラン役の宇野くんが「劇中、バンコランの銃にフォーカスを当ててみるとまた新たなストーリーが垣間みえるかもしれません。」とツイートしていたので配信のときに注目して見てみた。

デミアンが指摘したスパイ養成所時代のバンコランの癖は「右肘が遊ぶ癖」「右へ右へと逃げる癖」。最後の最後、デミアンと出会った頃の銃を左手に構え、まったく肘をぶらさずに仕留めたバンコラン。しかも左側から。デミアンの言う「あの頃の癖」なんてもう、本当は全部直ってたのかもしれない。バンコランもまたあの頃のバンコランのままではなかったんだ。

傷ついたマライヒを丁寧にベッドに寝かせてやるバンコランが、マライヒに子守唄をねだられて歌ってあげるのがいいよな。デミアンはバンコランがお風呂で歌を歌うことや、それが上手なことを知らなかったんじゃないかな。デミアンとバンコランのベッドシーンが、過去のセックスのトラウマを俺とのセックスで忘れさせてやる的な二次性暴力の流れだったし、バンコランが一時的に過去のトラウマを忘れててもデミアンとのセックスやその後の美少年を弄ぶ生活は半ば自傷行為だったんじゃないかと、おだやかなバンコランとマライヒのやりとりを見ていて感じた。

パタリロ、ものすごく楽しかった!見に行って本当に良かった。

キャストについて、前作スターダスト計画にも元テニミュキャストがいっぱいいたけど、今回ほとんど見覚えのある顔だらけでまるで同窓会みたいだった。

宇野くんのバンコラン最高だった。テニミュの時も思ったけど強い者の弱さとか繊細な内面の表現がとても良い。霧のロンドンエアポートの、幼いバンコランから現在のバンコランまでをシームレスで演じるのにふさわしいキャスティングだなあと思った。

ライヒが嫉妬で怒り狂ってスピーカーに足をかけてシャウトしながら歌うシーン、完全に後藤大くんのマライヒならではのシーンじゃないかな?佐奈ちゃんマライヒだったらこの演出にならなかった気がする。

宇野くんと後藤大くん、ふたりとも、強く見えるキャラクターの内側の、寄る辺のなさや儚さを演じるのがとても似合うなと思った。

タマネギ部隊、知ってる顔が多すぎてちょっと恥ずかしい気持ちになったけど、だんだん吹っ切れていいぞ!セクシーだぞ!って気持ちになって面白かった。黒タマネギ原嶋くんだけ脇毛剃ってないし(笑)大楽の配信で大久保樹くんがアドリブ頑張っていてテニミュ時代の日替わりを思い出したりした。タマネギ部隊や魔夜メンズはパタリロの誘惑的で豊かで光り輝く世界観構築の要だし、いろんな役を目まぐるしく演じていて目が足りなかった。

あと3rdテニミュ見てきた人ならわかると思うんだけど、今作の舞台パタリロデミアンとバンコランのセックスシーンでベッドが立てられた状態で登場した時、幸村がベッドに磔で登場したシーン思い出してちょっと笑った。

途中コンプライアンスがどうこうとか言い出すから少し不安に駆られたけど(どういう意味で言ったんだろう、よくあるポリコレのせいで面白いものを作れないとか言うタイプの時代遅れな話なら嫌だなっていう不穏さ)内容はめちゃくちゃ楽しくてエンタメに対する欲求が満たされた。コロナ対策のほうのコンプラだったのかな。

最後に演出の小林顕作さんがご挨拶されていて、胸に刺さりすぎてしまった。奇跡的に千秋楽までできた、こんな困難乗り越えたらどんなことがあっても倒れても這い上がってくる、みなさんも色々考えると思うけど僕らは絶対にずっと面白いものを作って劇場でお待ちしてるって。

コロナ禍で、自分の観劇に対するハードルってめちゃくちゃ高くなってるのを感じる。以前はなんとなく面白そうって興味を持っただけでも行ってみたり、多少忙しくても気軽にマチソワしたりするだけのフットワークの軽さがあったけど、今は絶対面白いだろう、絶対行きたいって思えるものしか、それさえも迷ってしまう。役者さんや舞台を作ってる方々こそ、こういう客より日々リスクにさらされていて、同じ人間なのに人より規律ある生活を要求されていて、それを知っててこんな事を言うのは申し訳ないけど、どうしたって精神的肉体的なハードルは上がってしまった。

前作のスターダスト計画が面白かったから、見に行きたい、元気になれそうって見に行く選択をできた。今回見てまた次回パタリロをやってくれるなら見に行きたいって思わせてくれた。それが何より嬉しかった。配信までしてくれて、本当に感謝しかない。もともと舞台は地域格差がものすごくはっきりと現れるエンタテインメントだし、行く行かないの選択肢すら最初から奪われている人達もいて、なんて贅沢な悩みなんだとも思ったけど、コロナ禍で配信が増えたのは労力も増やしてしまうけれどとても良いことだと思う。

ただひたすらに、エンタテインメントが死なないでほしい。エンタテインメントに関わる人たちの努力が報われてほしい。そのために何ができるんだろうって考えてしまう。

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