インクルージョンボックス

私の内包物をつれづれと

Nana Produce 真空家族 観劇感想

2018年8月19日、中野ザ・ポケットにて真空家族を観劇。
ものすごくゾッとする、救いのない、面白い話だった。真空家族というタイトルが秀逸だった。
もう一度観ることができたならまた別の解釈もできたかもしれないけど、一度しか見られなかったのであきらめて混乱のまま感想を残しておく。感想というか物語を咀嚼している途中の文章というか。下品な単語も並ぶのでご注意。

 

あらすじは、山奥の一軒のログハウスに訳あり夫婦(実際には夫婦ではない)と社会不適合者扱いされた少年少女たちが家族のように平和に暮らしていて、新たに加わる訳ありの息子がかりそめの平和を浸蝕していく。この訳あり家族を受け入れ難く思っている猟友会の男たちや、家族が経営しようと作っている途中の公園で起こった事故について尋ねてくる男、爺様と呼ばれる山の神様の巨大イノシシなんかが出てくる。

救いがない、ずっと箱庭の中で疑似家族たちが疑似セックスして、求められているような錯覚を抱き合いながら肩を寄せ合って生きてる。社会不適合者とされる子の周囲の誰かの安心を請け負って、そうすることで自分たちも安心を得たように錯覚しながら生きていく。

一番最初のシーン、山奥のログハウスで誘拐犯が女子高生に目隠しをして首を絞めるところを見た時、相手を拒まない、存在を確かめて、受け入れる動きをする、セックスだと思った。殺そうと思ったのに、巨大イノシシがあらわれて結局殺し損ねる。このふたり、結局最後まで腐れ縁だったけど、この時セックスが完了しなかったからなんだろうな。そして時が経ってそのログハウスで誘拐犯と被害者が疑似夫婦となり訳ありの少年少女を受け入れるアヤメハウスを始める。
話がそれるけど、誘拐犯が誘拐犯としての自覚をずっと持っているところがいいと思った。被害者も望んでいたんだとか言い出さない所が良かった。実際、被害者は誘拐されることで自分の生きている地獄からの解放を獲得したんだけど、それとこれとは話が別だから、加害者が最後まで加害者の自覚を持ったまま描かれているのがよかった。逆に、誘拐された妹に対して、逃げようと思えば逃げられたでしょって姉が言うのが地獄だと思った。

主人公であり家族のパパ役である誘拐犯があまりにも社会的弱者で、搾取されてしまう側だなあと思った。流れに身を任せてしまいがちなところ、勢いに押し流されて善人面して足元を見てくる奴に搾取されているのにも気が付けない。気が付いたところで抵抗できない。知識も足りないし自己肯定力が低い哀れな人だった。でも自覚があるにしろないにしろ、世の中にこういう人ってたぶんたくさんいるんだと思う。
被害者でありママ役のアヤメは金持ちの子で、金があっても幸福じゃない子供だった。でも皮肉にも大人になってから金である程度の幸福を得られることも知るはめになったりする。ふたりはしょっちゅう喧嘩する、喧嘩するとすぐに話が本筋からそれていく。意識してるのか無意識なのか、多分こうやってずっと本格的な決別から道をそらしてきたのかもしれない。犯罪者と被害者じゃない関係になりたかったんだろうな。でも彼が誘拐犯としての意識をずっと持ち続けていたから、疑似夫婦、家族もどきがせいいっぱいだった。

何かしら障害を持つ子どもとして受け入れられた面々、高校陸上400Mでの記録保持者だったが期待され過ぎて心を壊してしまった少年ケンちゃん、吃音症でギターを鳴らしながらでないと喋れない青年シンちゃん、視線恐怖症の少女ミナ、そして新たに受け入れられたのが衝動を抑えられない思ったことを正直すぎるほどに口に出し実行してしまう少年レオ。

レオがやってきた日、自分をここで受け入れるかどうか話し合うのに自分は邪魔だろうからと散歩に出かける。その後の展開が本当に恐ろしい。レオの母親はレオの異常行動(いねむりする同級生のまぶたをホチキスで閉じてしまった)に恐怖していてそれだけなら普通の反応に思える。けれど、預けられるとわかったとたんにさっさと荷物を取りに行く。3週間と言われたのにしばらく預けたいと言う。そして自分は年末年始を海外で、夫ではない人と楽しく過ごす気でいる。
この時レオは散歩と称して出かけたが、うさぎ小屋から子ウサギを奪い、ミナの部屋に窓から侵入して視線恐怖症のミナの目の前で恐怖が足りないから人の目が見られないんだとうさぎの腹を切り裂く。その後なにくわぬ顔で戻ってきて、セーターに付いた血を指摘されても後でわかると言ったまま笑顔でほかの少年たちとキッチンに向かう。
レオがミナを最初に見た時、視線恐怖症だから頭を伏せてくれと言われたのに、挨拶をした。逃げるミナに対して走った好奇心を抑えられなかったんだろう。うさぎ惨殺は実際に目の前で表現されたわけではなく、うさぎが包まれているだろう血まみれのタオルをもってふらふらと階下に降りてくるミナが、やっとの思いで悲鳴を上げることで表されているんだけど、本当にゾッとした。レオがミナの目の前で、恐怖が足りないんだってウサギの腹を切り裂くのなんてレオにとったらマスターベーションでもミナにとってはレイプだと思った。

レオとパパさんの会話で、あと一年ちょっと我慢すれば卒業なのにいいの?と聞かれ、時間は有限でいつ死ぬかもわからないのにとレオは我慢する理由が理解できない。人生まだ長いと諭されて、あなたは神様なのかと問う。神様じゃなきゃ寿命なんてわからない。そこでちょうど12時間後に死ぬとパパさんに宣言する。そう言われたら嫌でしょ?と。そして宣言したとおりに、12時間後に殺しにやってくる。猟友会の男を襲い、猟銃を奪って。
神様というフレーズがたびたび出てくる。社会不適合者とされる少年少女が自分の中に神様がいると言う。自分の中の神様を信じることと自己肯定がおそらくイコールでつながるんだろう。爺様と呼ばれる巨大イノシシも神様だ。

ミナはレオが与えた恐怖によって人の目が怖くなくなったかもしれないと言う。パパさんは治さなくていいと言う。パパさんに寒いから抱きしめて欲しいとすがる。これもある意味では疑似セックスというか、存在の肯定を求めてるんだと思った。治さなくていいって言うのはある意味でこのまま自分たちと同族であり続けて欲しい願望なのかもしれないと思った。手を煩わす子どもでいて欲しいという。アヤメがここは寒いからベッドに連れていけと言いどろぼう猫とつぶやくあたり、やっぱり疑似セックス感がある。
その後アヤメは、子どもたちが作っていたトーテムポールをのこぎりで壊しだす。疑似家族がもう続けていられないことの表現だろう。
シンちゃんが降りてきて、もう疑似家族でいられなくなることを悟って俺とふたりでアヤメハウスやろうと言い出す。重度のどもりだったはずなのにギターがなくても意思疎通ができるのを見て治ったの?と聞く。シンちゃんは吃音症のミュージシャンてキャラを装っていただけだった。そう装っていたら本当に重度の吃音症になってしまった。そういうキャラじゃなきゃ路上ミューシャンなんて腐るほどいて目立たないからそう装ってたのに、自分を殴らなきゃうまく喋れなくなってしまった男の哀れさ、かなしかった。
治ったの?ってフレーズは結構残酷だ。治るってなんだろう。どういう状態になれば治ったことになるんだろう。世間一般の普通と異常をわけるザルの網目を通り抜けられるようになったら治ったことになるんだろうか。

パパさんを宣言通りに殺しにやってきたレオ、神様になろうとしていたんだろうな。ミナにパパさんを殺したら殺すと宣言されて、真正面からの意思の疎通、命のやり取りがまたひりひりするような疑似セックスだった。そして、一番最初にシーンと同じく、巨大イノシシがやってきて殺し損ねる。レオは子どものように泣きじゃくり警察に連行され、アヤメはレオが帰ってくるまで責任を取るためにホームを続ける決意をする。歪な家族が出来上がった最初の出来事のくりかえし、もしくはやり直しなのかもしれない。
序盤でパパさんがイノシシの罠にかかったのって、神様を探していたってことなのかな。巨大なイノシシ爺様を探していてイノシシ用の罠にかかってしまったのかも。

自分を肯定できたら、自分の中のいる神様を信じられたら、神様になれるって、その神様はどんな形してんだろう。異常だと思われないふうに擬態できてる人間の姿ではきっとなさそうで、山を震わせるほどの大きなイノシシの姿なのか。人を殺す衝動を行動に移すことができる、一線を越えることを自分の神様を信じるってことなら、神様を信じられるようになんてならない方がいいんだろうけど、そうしないと自分を肯定して生きられないなら、神様を持つ人だけの箱庭で生きていくしかないんだな。それって楽園なんだろうか、牢獄なんだろうか。
一定の、普通というくくりの中に入れる人や、普通を装うことができる人たちの安心のために殺されていく社会不適合者は人の形をした異常者なのか。箱庭の中から見たら、普通っていう外の世界に生きてる人のほうがよほど人の形をした異常者が生きてたりするんだろうな、レオの母親とか。
アヤメとその姉との確執つらかった。自分の父親のことを王様って呼ぶ姉妹。家族写真見てみなよあんただけ笑ってるって、笑った顔してたって笑ってるとは限らないのに。でも自分と同じ被害者だと思ってた妹が、勝手に誘拐されて一抜けたってされたら恨んじゃうんだろうな。誘拐犯と夫婦の真似事している妹の姿が幸せそうに見えたなら、誘拐された妹に逃げられたのに逃げなかったんだとひどいことを言ってしまえるんだろう。何万回も殺したいと思った男を介護しているアヤメの姉はずっと地獄の中で生き続けなくちゃいけなくて、でももうすぐ自分を支配し続けた王様の命が終わる。彼女の地獄も終わるんだろうか。
最後にレオとミナがアヤメハウスの紹介動画を撮る。パパさんの動画と全く同じ上っ面だけの軽い照会文をしゃべるレオ、撮影するミナ。

夢はまだ先、入るなキケン、アヤメハウス。アヤメが最後に書いた看板。入るなキケン、本当にその通りだと思った。

最後にアホみたいな感想。アヤメ役の雛形あきこさんめちゃくちゃ美しかった。ミナ役の大和田南那さんも中盤までタオルで顔を隠していたけれどタオルを外すとめちゃくちゃ美少女…!レオ役の大薮丘くんは目が印象的な美青年だからこその不気味で怖い役どころが引き立ってた。眼福でした!