インクルージョンボックス

私の内包物をつれづれと

『ガール・ピクチャー』感想

3人の女の子達それぞれに、すこしずつ10代の頃の自分の成分を感じられて、でも今の価値観で生きてて、みんな愛しくて大好きで泣きたくなるような映画だった。

3度の金曜日で3人の女の子達の人生が激動する。あっという間なのにひどく鮮やかで痛くて苦しくて、でも3人ともが自分で自分がどう生きていくのかを、その一歩を踏み出し始める。みんな、自分の主導権を自分で持って生きていくことを決める。私が彼らの年齢のころ、こんなにしっかりはしていなかったな。

ミンミとエマの出会いは最悪で、フィギュアスケート選手のエマがカロリーや中身を気にしながらスムージー選びに悩んでる姿を見て意地悪げに笑うミンミに対して「私のことをよく知らないくせに馬鹿にするな」ってハッキリというエマは格好良かった。その後すぐパーティで再会した時には、あっという間に距離を詰めて2人で抜け出して踊ってキスしてセックスするのはびっくりした。(でもまあ世にあふれる異性愛も特に深い説明も意味もなく一瞬でくっつくので、女女の恋愛でもこのスピード感は別にあってもいいよなと思う)

ロンコは好きな男の子に近づきたい、上手くセックスができるようになりたいと思いつつ、男の子といても何も感じない自分はおかしいんじゃないかと悩む。男の子とのセックスに"失敗"ばかりで、自分は普通じゃないと落ち込むロンコにミンミが「あんたは女神よ」って言うシーンが好きだった。あと後半で怒鳴り合いの喧嘩をして、お互い容赦なく相手の痛い所をついて傷つけ合うのに、それでも次の瞬間には駆け寄って抱きしめ合うシーンが好きだった。

ミンミが母親からの愛情に飢えてて、好きな人や大事な人をどうしてもわざと傷つけてしまう所を自分でも自覚してて、自分でもどうにかしようと薬も飲んでて、やるせなくてたまらなかった。母親からの電話で約束していた義弟の誕生日パーティを、プレゼントも用意して、恋人のエマも連れて行ったのにすっぽかされて、どうしようもなく悲しい気持ちが吹き荒れてるのに、母親とその家族の前では笑顔でやり過ごしてそっといなくなるのが辛かった。母親に直接向けられない思いをずっと自分の中に閉じ込めてるから、余計にコントロールが効かなくて自分を傷つけてしまう。ロンコとの喧嘩で警備室に呼ばれ事情を聞かれるシーン、ミンミが母親からの愛情に飢えてて試すようなことをしてしまうのかな、ということが示唆されてて、乞うて乞うてようやっと現れた母親に自分の寂しさを吐き出すのは、子どもが親に甘すぎる優しすぎるって思ってしまった。

エマはずっとスケート一筋で脇目もふらずにやってきたが得意のトリプルルッツが跳べなくなる。そんな時にミンミと出会い、スランプ状態のスケートからミンミとの恋やセックスに逃避する。ミンミはエマとの関係が深くなっていくにつれ、エマから離れようとする。

このふたりの恋愛が途中でこじれていくその障害が、同性愛だからではなく、それぞれの人生が抱えている個々の問題によって拗れ、ふたりが個々に自分がどうその障害に(エマはスケート、ミンミは母親との関係性)向き合うかによって解決に向かうのが良かった。

ロンコが男の子と恋愛やセックスがどうやったら上手くできるようになるか、実践でもあり実験のようにパーティを渡り歩いて試していくの、結構辛くて、でも最後に男の子を前に「キスもセックスもしたくないかもしれない」って自分のことを信じられるようになるのが嬉しかった。私は恋愛をしない人間だけど、やっぱり昔は自分がおかしいのかも、とかまだ出会ってないだけかもと疑っていて、でも実践で試すような勇気もなかった。思考実験のようなことはしたことがある。けどただ悲しかった。今はもう、異性愛規範や恋愛伴侶規範を当たり前とする社会と人々によって疑わされていただけだって思うようになったけど、彼らと同じ年の頃は辛かった。

エマがミンミに「運命の出会いってわかる?私達よ!」って憤りのように熱く告白するシーンがとても好きだった。作品の意図とは違うかなと思うけど、ミンミとエマの2人の恋愛が運命だと言うなら、きっとミンミとロンコの友情もまた運命だったと思うし、この世の女と女の恋愛や友情や様々な関係性が、何に邪魔されることなく運命の出会いだと肯定されるような気持ちになった。

作中けっこう下ネタが多いしセックスシーンも多かったけど、インティマシーコーディネーターが入って撮影されたということがパンフレットに書いてあって大好きポイントがさらにアップした。最高。

女と女の恋愛とセックスも、女が自分は男と上手く恋愛やセックスできないけど上手くやれるようにしようと実践してみた結果、キスもセックスもしたくない人間かもって普通にたどり着くのも、どっちも当たり前に描いてて、クィアで流動的なティーンの性のあり方を軽やかに描く青春映画最高すぎんか?日本でこういう肯定感を得られる機会ってほとんどない。今まさに彼らと同世代の人達にも出会ってほしい映画だなあ。