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私の内包物をつれづれと

ミュージカル ビリーエリオット2020 観劇感想

赤坂ACTシアターにて、ミュージカル ビリーエリオット観劇!!!日本初演(2017年版)が楽しすぎて心待ちにしていた再演、7月8月公演の中止を乗り越えてやっと見られた〜!!!楽しかった。

2017年版は東京大阪で8公演通ったけれど、さすがに今年は大阪には行けないなと思い、東京6公演(9/19昼 太一ビリー、9/20昼 出日寿ビリー、9/24昼 海琉ビリー、10/3昼 調ビリー、10/4昼 海琉ビリー、10/8昼 太一ビリー)を観劇。仕事が休みの日ほとんどビリー入れたり、更に有給ぶちこんだりなんだりで少々無理もしたけど、ビリー4人を全員見られて本当に嬉しかった!

以下とりとめのない感想。ダラダラと長くなってしまった。最後に4人のビリーの雑感があります。

 

今回、2017年版では普通に聴いていたオープニングナンバー「星たちが見ている」で既にウルウル来たんだけど、歌詞が今とリンクして聞こえるからだなあと思った。「夜を越えてゆけ闇を恐れを、涙 嵐さえ越えて進もう」コロナ禍の中で見るビリーエリオット、私には希望の光に見えた。


グランマソング、パワフルにクソッタレの世の中にツバ吐いて中指立ててる大好きな歌!おばあちゃんが死んだ爺さんのことをロクデナシだって中指立てながら罵りつつ、自分にだってチャンスはあったし男に頼らず生きていければ良かったって歌うの、現代にも通じててグッと来てしまう。女としての抑圧の苦しみ、夫は働いた金ぜんぶ酒につぎ込んで、喧嘩するたびに殴られる、でも彼と踊っているときだけはまるで空気や水や光のように開放的に自由を感じられる、今表現するならDV夫だ……ってなる。おばあちゃんがとにかく明るくて元気だから見落としてしまうけど、根岸季衣さんも阿知波悟美さんも夫に対する畏怖があるってわかるように演じられていて、認知症の彼女が「戻らないシラフに」って歌うことが見方を変えると物悲しくもある。


Solidarity、柚希礼音さんは初演でも拝見してたからまたあえて嬉しかったし、安蘭けいさんのウィルキンソン先生もとっても素敵だった。それまで子供たちにどんな自分だって舞台で笑いなさい輝きなさいと指導しつつもいま自分が本気で輝こうとなんて思ったりできなかった先生が、ビリーの才能にであってどんどん熱を帯びていく。暗闇にかき消されそうな小さな星の輝きを守る使命に燃える。

先生はビリーを指導し支える立場ではあるんだけど、自分を照らしてくれる星に出会ってしまった瞬間なんだよね。この輝きを守らなきゃって、ビリーのためだけじゃない自分の為に。もうさ、ウィルキンソン先生は惰性で生きてるんだよ。自分の人生に投げやりで諦めてる。口癖みたいに言う「どうでもいい」って言葉で、本当はどうでも良くないことをたくさん諦めて手放してきた。でもビリーに出会ってまた命をもらったんじゃないかな。このためにこの子の力になるために今まで生きてきたんじゃないかって、そうやって必死になることで先生も輝ける。ビリーの才能が開花し始めるときに、当然ビリー自身が輝いてるんだけど、それと同じくらいウィルキンソン先生が生きてる、輝いてる、それに泣いてしまう。踊るために生まれてきたってビリーに出会って思い出せたこと、ビリーのために心と体が動き出すことが、きっと幸せなんだなあって思う。

Solidarityは演出が本当に楽しい。バレエ教室でのビリーのバレエの成長過程と、炭鉱夫と警官との激化するストの争いの時間経過、別の場所で起こる事をあんなふうに入り乱れ絡み合う一つのシーンに仕立てるのって本当にすごい。何度見ても新鮮に面白い場面でテンションが上がる!


Expressing Yourself、もう本当に大好きな歌とシーン!元気が出るし、ウルウル来る。グランマソングと同じで、クソッタレの世の中の抑圧に、ふざけんなって中指立てて明るく楽しく元気にふっ飛ばす歌!マイケルとビリーが笑顔で踊りまくってるの最高だし、楽しくてたまらないのに涙出る。歌詞がいいんだよ、現代に生きてる私がうんうんって頷きながら泣いてしまうくらいに。マイケルが姉や母の服を着てファッションショーしてるのも、ビリーがバレエを習って楽しいと思うことも、誰も傷つけないし何も悪くない。自分を表現して何が悪い、楽しいことして何が悪いんだって。マイケルが「ダンスやりたきゃやっちゃえ 炭鉱夫にもなっちゃえ」って自分を抑圧してくる男性性の象徴のような炭鉱夫も否定しないし、ドレスと踊る時も最初は婦人服オンリー!ってズボンを追い払うのに最後にはOKって受け入れるの優しいなあっていつも思う。これを見るたび子どもたちを守ってくれって思う。光り輝く可能性のかたまりを守ってほしい。拍手してもしきれない、大好きなナンバー。


Angry Dance、どのビリーも怒りを爆発させて嘆き叫びながらタップダンスする様はいつもいつも圧倒される。胸が苦しくてたまらなくなる。

お母さんからの手紙をウィルキンソン先生に声に出して読んでと強請るシーンで、ビリーは手紙の内容を諳んじてしまえるくらい何度も何度も読み返してきたし「どんな時でも心のままに ビリーあなたらしく生きて」っていう亡き母の愛情に縋って生きてきたってわかる。父親にも兄にもバレエを否定され、母ちゃんなら行かせてくれた!って言葉も、母ちゃんは死んだ!と父親に突き放される。真っ赤な照明がビリーの怒りに呼応して、恐ろしくて悲しいシーン。

 

あいつには輝く道がある、父親と兄の衝突で、中河内雅貴さんのトニーの表現がとても好きなんだ。トニーはいつだって怒ってるのだけど、怒りに嘆きの成分が多くて、怒鳴り声が慟哭に聞こえてくるのが中河内さんのトニーだなあと思う。泣き崩れてしまいそうに見える。中井智彦さんのトニーはより勇ましくあろうとする部分がある気がする。父親が与えてくれた誇りを息子として守ろうと必死に立っている。

「お願いよジャッキー」と、スト破りなんかにならないでくれと懇願する女性が、ビリーのチャンスの為なんだと苦しむジャッキーに対して真っ先に「使いな、これも」とお金を手渡していく所でいつも涙が出てくる。みんなストライキでお金がなくて苦しんでるのに、続々とわずかなお金を差し出して、誇り高くあろうと団結する。見捨てたりしないと。


Electricity、Angry Danceに続いて肉体の限界まで酷使するようなパフォーマンス。しかも歌いながら。どのビリーもみんな違ってみんな素晴らしい!オーディションでダンスを見てももらえなくて怒ってるところ、自分にとってダンスとは何か考えて迷ってるところ、自分を見失うくらい夢中になること、気がついて気がつけたことが嬉しくて、自分で自分のことがわかったこと、炭鉱の街に生まれた小さな火がダンスによって燃え盛る炎になりそれが電気に変わる。鳥のように星のように空に舞い輝いて未来を変えていく。このシーンから終わりゆく炭鉱の街と、未来に羽ばたいていくビリーの対比がいっそう明確になっていく。ビリー自身の輝きこそが説得力となって。


過ぎし日の王様、オープニングナンバーの星たちは見ていると対になってるんだよね。炭鉱夫たちが戦いに破れ、炭鉱の街が廃れていくこと、失業することを理解しつつ、淡々と冷たい地の底へと降りていく。ビリーを地下に降りていく炭鉱夫たちのライトがスポットライトのように星の瞬きのように照らしてる。この眩しいヘッドライトの光が徐々に消えていって暗闇になるシーン、ビリーのバレエの夢を応援し、背中を押せたことが多くのものを失う彼らに残されたわずかな誇りの一つになっているんだと感じて涙が出る。

20万人の炭鉱夫が失業する。ビリーがバレエ学校から帰ってくる頃には、知っている人はみんな失業してるし近隣の街もすべて炭鉱の火は消えてしまう。20万人の男全員、クソッタレダンサーにはなれんとよ、ほんの数秒前までビリーの合格を喜んでいたトニーの震える声が悲しい。ビリーの旅立ちの日に奴らをぶっ飛ばしたれって笑顔で声をかけた後、ビリーに背を向けたトニーの、スポットライトを外れた影の中での苦悩の表情が悲しい。

旅立つビリーを見つめるマイケルの寂しそうな姿見るたび、この廃れゆく炭鉱の街に残されるマイケルにも希望を与えてくれって思う。ボクシングジムでビリーが、マイケルの父ちゃんはマイケルにボクシングやらせたくないんだって言ってたし、Expressing Yourselfで父ちゃんもよくワンピースやスカート履いてるって言ってたから、マイケルのことを否定しない父親だといいなあ。ありのままでいたいマイケルの未来が明るいものであって欲しい。マイケルだけじゃなくトニーにも炭鉱夫たちにも。何とか誇りにかけて守ったビリーという小さな星の光だけをよすがにするんじゃなくて。


4人のビリー雑感
渡部出日寿くん、バレエのサラブレットなのでバレエのシーンがとても伸びやかで躍動的で美しかったのだけど、Angry Danceの憤りが爆発するタップダンスにとても圧倒された。得意分野だから初挑戦分野だからとかじゃないね、すごい。声がとても澄んでいてよく通る!天使のような声だった。一度しか見れず残念、もう一回見たかった!

中村海琉くんは歌を届ける力がすごい。後半の山場Electricityを力いっぱいのダンスをしながら最後まであの声量とクリアさで届け切る、光り輝くめたくそ特別なビリーだ。Angry Danceのタップめちゃくちゃ力強くて、あとやっぱり声、怒り嘆き叫ぶ姿とその声に涙が出た。憤りだ、ビリーは本当はずっと怒ってた。本当は最初のシーンからずっと怒ってたんだって、海琉ビリーを見てるとそう思う。どんな時にも心のままにあなたらしく生きて、そういう愛情が側にあったのに、大人にとって都合のいい子供らしさの箱の中に閉じ込められた埋み火がバレエと出会って再び火になり、燃え盛る炎になった。Angry Danceの時だけじゃなくて、本当はずっと怒ってたんだって、なんで今まで気が付かなかったんだろう。海琉ビリーすごい、気づかせてくれてありがとう。

川口調くんはダンスやアクロバットがとてもダイナミック。あと他の子たちより根がヤンチャっぽくてひょうきんで喜怒哀楽がハッキリしてて表情豊か。お母ちゃんが手紙で見れなかったって言った駄々こねて暴れてわめく姿って表現に、素直に繋がるようなビリーだった。その分だけお母ちゃんの手紙のシーンが自己肯定のための自分の内面との対話に思えるし、ウィルキンソン先生の「自分の事なんよ!」って言葉がビリーが欲しかった支えと導きに感じる。ウィルキンソン先生に「とっとと失せな私が泣き出さんうちに」って言われてOKっていう応えが、ウィルキンソン先生の愛情をわかってるよって、ちゃんと受け取ったよっていうOKだった。泣いた。

利田太一くんはすらっと長い手足がとてもしなやかでピルエットが美しいし、バレエのシーン何度も見惚れる。Angry Dance直前の悲しみと怒りの混ざる顔で「母ちゃんなら行かせてくれた!」って父親に怒鳴って、母ちゃんは死んだ!って言い返された瞬間表情が抜け落ちるのが鳥肌立った。2回目見た時は、根の繊細さはそのままに、ビリーの実は生意気な所とか、お母ちゃんが死んでから本当はずっと怒ってた事とかがガンガン前に出てきて成長スピードすご!ってなった。


東京公演序盤に見たとき、ビリーは割と口は悪くても少し引っ込み思案でおとなしめな印象があったけど、回を追うごとに印象が変わってびっくりした。ほんの少しの時間で表現がどんどん変わるし力強くなる。何度でも新しいビリーに出会えるんだなあ、すごい。ビリーエリオット楽しいなあ。4人のビリーの違いだけじゃない、日々の彼らの感情の揺らぎが、心に灯るビリーの違いになって現れるんだ。同じ時なんてない。


ビリーエリオットの物語は少年の才能の輝きに感化され変化していく大人たちがいて、完全に明るい希望に満ちたラストではないけれど、虐げられる弱いものがマイノリティがきちんと守られる世界であって欲しい、そういう訴えとそれが少しだけ叶う希望を見せてくれるんだけど、実際板の上でそれを表現するのはマジョリティであり今守られている者たちなんだ。観に来ているお客さんも、きっとバレエやダンスを習ってるのだろうお子さんを連れたご家族がたくさん来ている。それが悪いという話ではなくて、なんかちょっとだけ皮肉に感じてしまう。

ビリーはヤングケアラーなんだよなって、2020年版ビリーを見てやっと気がついた。父親や兄がまだ12の子供だって言う同じ口で、子供がやりたいというバレエを偏見のまま真っ向から否定し、バレエもボクシングもなし帰って婆ちゃんの面倒見てろって言う。実際ボクシングも(おそらくバレエも)おばあちゃんの面倒見ていて遅刻していた。

更にいうとおばあちゃんのグランマソングとかマイケルとのExpressing YourselfとかAngry Danceとか、ビリーの才能に出会う前のウィルキンソン先生のなげやりな態度や言葉とか、女やマイノリティへの抑圧に対する不満をパワフルにエンタテインメント化していて、その抑圧や不満って現代にも通じる話なんだよなあって、だからこんなにも元気をもらえたり共感や感動を生むんじゃないかなと思った。誰にも言わないよねって怯えるマイケルに、頷いたりニコって笑うビリーが見られたの嬉しかった。


いまMy千秋楽が終わってしまったことがさみしくて悲しい!何回見ても何度も感動したし楽しかった。

その度に、楽しみにしてた舞台がコロナで中止の嵐になり、ビリーを含む手持ちのチケット全部返金処理したことが、もう大丈夫になった気がしてたけど悲しくて辛くてたまらなかったんだって思う。幕が開くことの喜びが重みが悲しいくらいに感じられた。楽しかった。

残りの東京公演、大阪公演もカンパニーの皆様が無事走り抜けられますように、楽しみにしていたお客さんみんなが無事観劇できますように。

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