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私の内包物をつれづれと

ミュージカル フランケンシュタイン 観劇感想

2020年1月19日、日生劇場にてフランケンシュタイン、ビクター:中川晃教さん、アンリ/怪物:加藤和樹さんの回を観劇

もう観劇から1ヶ月近く経っていてびっくりすぎる。作品自体は大変面白く、観劇後友達ともワイワイ感想を言いあったりしたのだけど、1月後半ずっと気分が落ちてて感想を書く気力がなく言語化できず。もう書けないかなと思っていたのだけど、2月にテニミュ見まくってたら元気百倍になったので今更思い出しつつ書いた。しかしめっちゃ忘れている。以下感想です。

 

フランケンシュタインを観劇した日、脳みそグルグルにされてヘトヘトで帰ったらすぐ寝落ちしたんだけど、この舞台は通いたくなるのわかるなあ。日によってもキャストによっても役解釈が様変わりしそうだし、見るたびにきっと解像度が上がるしわかったと思ったらわからなくなりそう。

中川晃教さんは本当に、歌で声色で表情でその場を支配するずば抜けたエンターテイナーで見ていて怖くなる。コミカルな役でもシリアスな役でも、観ている人の視線や意識や心を強烈に引き込む人だ。最後のビクターの狂気じみた笑顔のような怒りのような表情、いろいろ考えたいなあと思った。光の当たる向きで如何様にも受け取れる能面と向き合ったような、見ている人間の心を反映する鏡を覗いたようなゾッとする瞬間だった。周囲に狂人のように扱われ、実際非倫理的に思える研究を止まることなく突き進むのは傍から見ると恐ろしい。けれどそんな彼を作り出し、更に育てるように孤立させ、集団で冷ややかに娯楽のように非難し続ける周囲の人間のほうがとても身近でリアリティのある怪物にも思えた。

加藤和樹さんのアンリも怪物もめちゃくちゃ良かった。アンリのビクターへの恋と表現するほどの焦がれる感情、ビクターを救うために自分の死を決意したときのあの満足げな笑顔。あの清らかな歓喜に満ちたような笑顔にゾッとした。救済に見せかけた、永遠の呪いだ。恋が憎悪になって、アンリが怪物となって、ビクターの元へと戻ってくる。怪物の最後の笑顔があのときのアンリの笑顔とそっくりなんだ。それが本当に恐ろしくて、本当に怪物だったのは誰なのか考えてしまう。

アンリはひどい男だ。ビクターは他人から理解されたり信用されることなく育ってきた。だから自分を理解し信用してくれた親友が身代わりに死刑になるというのに、自分が殺した事実を告げることに躊躇いがあった。(夢のために首がほしい気持ちも皆無ではないかもしれないけど)アンリの行動は、ビクターが勇気を持って事実を宣言したのにまた信用されず、最愛の親友を失うという大きな絶望を与えた。

ただの人間である誰かを自分の神様にしてしまう人なんてひどい男に決まってる。アンリはビクターと出会ったときに命を救われた、拾ってもらった命、アンリはあの時死んで生まれ直したのかもしれない。だからビクターを自分だけの神様にした。自分が死刑になるときのあの満足げな笑顔は、ビクターのために自分の命を使えることの喜びと、自分が死んでも自分の諦めた夢がビクターの夢の中で生き続けること、自分の死がビクターの心に抜けない棘として痛みを与え続けることを自覚していたからかもしれない。ビクターを神様にしたアンリの首から創造された怪物が、またビクターを創造主という神様にする。恋のような執着が憎しみへ、アンリが自分の命を使って救ったはずのビクターの生を、再生された怪物としてのアンリが殺していく。自分だけのものにしていく。ふたりの感情と命が順繰り巡っていく。残酷で恐ろしくて美しい円環だなあと思った。

音月桂さんはジュリアよりもカトリーヌのほうが見ていてテンション上がった。この方のこういう苛烈な役どころを演じているのを見るのが好きだ。おしとやかなお姫様より、不条理に怒りを迸らせる姿に心躍ってしまう。(オレステイアの時の演技に惚れてフランケンシュタインを見たいと思ったんだ)ジュリアはまるでビクターの母親がわりのようだった。優しく穏やかに慈しみ、いつでもビクターを信じて待つ。子供にとっての架空の理想の母親みたいだと思った。幼い頃に母親を失って、その母を生き返らせたい一心で非倫理的と非難される研究に突き進むビクターにとって、母親に近いような愛情を注ぐ彼女は安寧の象徴だったろう。だからこそ、怪物は彼女を標的にした。

カトリーヌはジュリアとはとても対比的な存在で、ひとりの役者がこの真逆のキャラクターを演じるのがとても面白かった。

裕福で地位も権力もあり、それゆえ心にゆとりがあり、多くの人に囲まれながら優しく穏やかに好きな男を一心に慈しむジュリア。金も地位も権力も無く、身を売り心を踏みにじられ、人間という怪物どもから逃げるために人間のいない北極を夢見て、人間よりも怪物に心を寄せ、それでも自分が生きるために愛した怪物をも切り捨てるカトリーヌ。ひとりの役者が演じるからこそ、強烈に皮肉で、このふたりの一体何が違うんだという苦い気持ちが湧いてくる。

フランケンシュタインのことを全く知らずに見に行ったので、ビクター/ジャック、ジュリア/カトリーヌ、エレン/エヴァ、ルンゲ/イゴール、ステファン/フェルナンド、ひとりの役者が全く違う真逆ともいえる2役を演じている演出の面白さに圧倒された。知らずに見に行ったからこその衝撃だった。前述したジュリアとカトリーヌも衝撃的だったけれど、怪物をアンリの復活と思い喜び愛したビクターと同じ顔をしたジャックが、怪物を罵倒し拷問する姿、すごかった。エレンとエヴァは最初まったく別の役者さんだと思っていた、それくらい歌声もセリフの声色も別物で、本当にビックリした。同じ役者さんだとわかったとき最高に興奮した……エレンのどこか潔癖で清らかな雰囲気を体現する歌と声色、エヴァのあだっぽく支配的で調教師のような歌と声色、すごかった。

もう時間が経ちすぎて記憶からいろんなものがポロポロ落ちていて、なんとか思い出しつつ書いたので、もっと色々感じたものがあったはずか……と思いつつ、とんでもなく衝撃的で面白かったということだけでも書き残しておきたかった。もしまたフランケンシュタインを再演するなら、絶対に見に行こうと思う。

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