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私の内包物をつれづれと

THE MIX UP Vol.2「売春捜査官〜ギャランドゥ」 観劇感想

2019年10月27日、テアトルBONBONにて売春捜査官〜ギャランドゥを観劇!
つかこうへい作品を初めて見て、どう受け取るのが正しいのかわからずその難解さに若干苦しんだので、単純に面白いとは言い難いんだけど、このチケット代破格だなとは思ったのでとてもいい舞台でした。
以下感想です。

小劇場で役者の熱量が刺さってくるような演劇を浴びるだけで結構体力を使うんだけど、内容も内容だし、台詞量が尋常じゃないし、登場人物全員生きづらい人ばっかりでしんどかった。

ど頭から大音響の白鳥の湖が流れ、その中で受話器を耳に大声で何かを叫ぶ木村伝兵衛。それを皮切りに延々と怒鳴りつけ合うような会話劇、飛び交う罵詈雑言、差別用語(びっこなんて久々に聞いてピンとこなかった)、男尊女卑、古臭い世界観、誰も人の話なんて聞いてない。自分の言いたいことをただまくし立てている。もう最初から何を言ってるのかわからないし、聞こえてくる単語を拾ってもテレビだったら放送禁止なのでは?と思うような下品な言葉や差別的発言や個人的な侮蔑の言葉ばかり。脳が勝手にシャットアウトして聞き取らなかった言葉もあるんじゃないか?と思ったくらい。でもだんだんこれは意図的なんだなと思った。この上滑りするような騒音の中で、彼らが何を思っているのか、その真意に目をこらせっていうことなのかもしれない。

劇中で万平が木村伝兵衛を優しくないって言うけど、そんなの登場人物の全員だれも優しくないよね。ただ優しいだけの人なんて一人もいない。他人に優しくなんてできないくらい誰もが苦しいのかもしれない。女が男がホモ(作中表現のまま)が恩人が幼い少女が田舎者が、みんな優しくないよ。自分で手一杯でさ。

誰もが自分の権利や主義を主張するし、強い言葉で簡単にマイノリティを差別して笑うけど、笑われて傷だらけの人も同じだけ他人に差別的だったりする。あたりまえに。つらいな、自分もきっとそうだから。理解できないより手前、存在や痛みを認知していないから無自覚に凶器を振りかざしてしまう。

それだけじゃない、傷つけられた方もまた自分が傷つけられたことをお前がそうしたと断罪する口で、同じように相手を他人を鋭い言葉の凶器で傷つけてる。苦しいなあ。

みんな自分の言葉を聞いてほしいんだ。理解してほしい。自分のことばかりで人を傷つけて、傷ついた人を見ても自分のことわかってくれないって泣き叫んでる。木村伝兵衛も熊田も万平も容疑者山田金太郎も被害者アイ子も在日朝鮮人の李も李を頼って五島を出てきた幼い少女たちも。わかんないよ、他人のことなんてわからない。目に見える表面しかとらえられなくて、心のうちなんてわかりっこない。みんな多面的で、見る角度でまるで変わってしまう。李は何も知らない少女たちを売春宿に売りつけた極悪人かもしれないし、五島の村長に言われるがまま少女たちに生きるための仕事を与えなければ居場所を奪われる弱者かもしれない。少女たちも体を売ることを強要された被害者かもしれないし、李に金品をせびり彼のこころを自殺へと追い詰めた一因かもしれない。大山金太郎もアイ子も、相手に自分が思い描く期待を裏切られて愛情が一瞬にして憎しみに変わってしまった。勝手に期待して裏切られて、そんなことばかりだ。

木村伝兵衛が大山金太郎をとことんまで追い詰めて自白させたその時、舞台の上の彼は汗だくで、職工のオレンジ色のつなぎは汗が染み込んで暗くなりまるで血だらけになっているように見えた。木村伝兵衛がうずくまる大山金太郎を花束で何十回も殴りつける姿が目に焼き付いてる。あれはたぶん彼女なりの祝福なんだろうと思った。やっと事実を、自分が殺した幼馴染や自分が自殺に追い込んだ恩人のことや島のことを真正面から受け止めて、これで晴れやかに十三階段を登って死ねるだろうという餞なんだなと。

最後に、木村伝兵衛はかつての恋人熊田に酷いフラレ方をした。木村伝兵衛だってひどい女だけど、熊田もそれはもうひどい男だった。心の底から愛した女いるからとフッてやればいいのに、お前を心底好きで美しさに目が眩んでるままだけど、不細工ながら自分にとってちょうどいいレベルの自分に尽くしてくる都合のいい婚約者が身ごもってるからだと。勝手にマドンナ扱いするのも、勝手に不細工な売女扱いするのもくだらない。伝兵衛も婚約者もどっちも馬鹿にして見下して、本当に旧時代的なひどい男だった。

それでも木村伝兵衛は変わらない。利用できるものは自分の身体だって利用するし、離れていく万平には今まで散々コケにしたくせにまるで本当は大切だったようなそぶりで、そのくせ頓珍漢な餞別を贈ってやって満足げだったり。大切なのもコケにするのもどちらも本当なんだ、この女は。人間はみんなそうなんだろうたぶん。だから身につまされる。こんなに最低でひどい人間像を描いて、見てる側にひどいと思わせておいて、でもそれはきっと自分もそうなんだと思うからこんなに苦しい。変わらない木村伝兵衛を見て、それでもこうやって生きてくしかないんだって思わされた。前向きなんだか後ろ向きなんだかわからないけど、ひたすらに、醜くても生きろってことなのかなと思った。

難しかった〜、つかこうへい作品わからん。TRANSぶりに本田礼生くんの演技を見たけど、また初めて見る姿に出会えたので楽しかったし、目に見える成長を感じさせてくれてやっぱりすごい人なんだなと思った。
熊田役の彼がどうしたって他の役者さんより若いからフレッシュで可愛い感じをやらされて(特にアドリブシーンとか、やらざるを得ないというか)不自然さは否めないし、古い価値観古い差別用語が劇場を満たす中、ところどころで現代の時事ネタが出たりするの、なかなか楽しむには訓練がいるよ。
でもベテラン俳優陣の中で揉みくちゃにかれながらも、礼生くんがギラギラと食らいついているのが楽しかった。伝兵衛の乳を鷲掴みするのが遠慮がちで、もっとガッと行ってしまえと思ったけど(笑)。役が降りてきている時の、熊田の感情の揺らぎ、乱高下してザラついて誰にも優しくない男の生きた姿を見れて楽しかった。相方の隼くんの舞台口紅や孤島の鬼のときも思ったけど、ひどくて残酷で気持ちの悪い男を見目の良い俳優が演じるから醜さが際立つ、その醜さに目を凝らすから。
ひさびさに小劇場行ったけど、やっぱりおもしろい。またいろいろ見に行こう!

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