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私の内包物をつれづれと

レミゼラブル 2019 観劇感想

2019年4月28日、帝国劇場にてレ・ミゼラブルを観劇。

これはものすごく無知な人間が初めてレミゼを見た感想ですのでご注意ください!
本当に全然知らずに見に行ったので、感想もほぼストーリーを追っているだけの文章になってしまった。

レミゼラブルって有名だけど格式高そうだし難しそうだなあと思って敬遠していたのだけど、今回初めて観劇して、これはやはり素養を身につけないとなかなか楽しむのは難しいなと思った。
オペラ調っていうのが正しいのかわからないけれど、全編歌で進行することにまず驚いた。今まで見たことのあるミュージカルは、台詞は台詞として普通に話して、感情の高まりや秘めた思いを歌として吐露するものが多かったので初めて経験するスタイルだった。
あと、ストーリーが結構重厚でそれをメインに描いていく作品なんだと思ったのに(そういう作品でもあるのに)、一人一人のキャラクターがかなり尺をとって朗々と歌い上げる感じにも驚いた。きっと見にきている客層的にリピーターが多いだろうし、元々レミゼ自体が有名な作品だから問題ないのだけど、キャラクターの見せ場的な歌い上げのシーンがストーリーの間に多く長く出てくると、勉強不足の私はストーリーを追うのに手間取った。たぶんもう一度見るともっと楽しめて理解できる部分がたくさんありそうだなあと思う。以下ネタバレ感想です。

 

そんなこんなで全く無知な人間がレミゼラブルを最後まで見てみて、これは願いみたいな作品だなあと思った。人の祈りや願いはいつかきっと叶うという願い。無知でか弱く虐げられる存在がいつか不自由なく幸福になれるという願いの物語。

ジャンバルジャンの人生はジェットコースターみたいだ。妹のためにパンを盗み、19年も囚人として生活し、仮出獄で自由になったけれど犯罪者に人々は冷たく、心が荒んでいく。司教が手を差し伸べてくれたにも関わらず裏切り、銀の食器を盗んで逃げ、捕まったジャンバルジャンに司教は銀の燭台まで与えて神の教えを説く。仮出獄中に罪を重ね、その罪を償うこともせず、名前を変えて生きていく展開は、神の教えを説かれたのに良いのか?と思わず突っ込んでしまった。

ジャンバルジャンって話の中で聖人かのように言われるけど、全然聖人なんかではないんだよな。嘘もエゴもある人間が、司教に教わった神様の愛情や加護を信じようと、迷いながら間違えながら矛盾しながら必死にもがいて生きている。
市長として名を変えて生きるバルジャンは、やはり聖人なんかではないから間違いを犯すし、結局ジャベールの事を何度も騙すし、たった一人を救うことすらあまりにも難しい。
片親で娘を育て、預けた娘の養育費のために装飾品や髪を売り、娼婦として身を売りながら生きるファンテーヌは、弱者の象徴だと思った。他の娼婦も病気を抱えていて、それでも生きるために金を稼ぐために身体を売っている。けれどバルジャンが助けられる存在なんてほんの一握りで、しかもファンテーヌは娘を託す言葉を残して死んでしまう。その言葉を聞いて、またバルジャンはジャベールを騙してファンテーヌの娘コゼットを救いに行く。
幼いコゼットの歌、無知で無垢で本来ならば守られるべき存在なのが良くわかる稚く愛らしく透明な歌声で思わず涙が出そうになった。

十年後のパリ、貧困層があふれる街に施しにやってくるバルジャンと成長したコゼット。ここで革命を訴える学生マリウスとコゼットが出会い恋をする。マリウスが自分に思いを寄せているエポニーヌにコゼットと再会するための協力を頼む。
個人的にエポニーヌがとても好きになってしまって辛かった。演じていた昆夏美さんがもともと気になっていたのでより一層。マリウスがエポニーヌの思いにまるで気付いていないのが切ない。マリウスのためにコゼットと引き合わせてなお一途に思い続け、強かにたくましく生きようとしていたエポニーヌが好きで、届かぬ思いを歌う彼女が切なくて泣きそうになった。

マリウスがコゼットに宛てた手紙をエポニーヌに託し(ひどいことをするよ本当に)、その手紙をバルジャンが預かる。その手紙でコゼットとマリウスの関係を知り、マリウスが革命に参加することを知って、バルジャンは革命の仲間に入ることになる。
ここでエポニーヌがマリウスを庇って死んでしまうのだけど、その死に様が本当に切なかった。マリウスに死を悟られないようにする仕草、これでいいのだと言いながら縋るように愛しげにマリウスに抱擁を求める姿が、死の恐怖とマリウスを守れたことの満足と別れの苦しみが痛々しくて悲しかった。

バルジャンの歌「彼を帰して」がとても印象的で良かった。バルジャンが革命に加わったのは、コゼットの恋人マリウスがどういう人物なのかを探るためなのだろうなと思ったのだけど、共にいるうちに彼を護らなければと思うようになり、コゼットを愛しむ様にマリウスも護りたまえと神に訴えかけるのが、佐藤隆紀さんの澄んだ歌声に乗ってとてもグッと来た。

戦いの中バルジャンはまたジャベールとめぐりあう。革命に潜入していたジャベールが、正体がバレて絶体絶命というときにバルジャンがこっそりと逃してやる。革命側としてはジャベールを銃殺する意志があり、それをバルジャンがするべき場面でジャベールは助けられてしまう。これがきっかけでジャベールは自ら死を選ぶことになる。
ジャベールが自殺を選んでしまうことが、ものすごく印象的だった。バルジャンととても対比的に描かれ、正義と悪であり、罪と罰であり、法という秩序で行動を制御する生き方をするジャベールにとって、バルジャンの言動はあまりにも理解から遠かったのだと思う。理解し難く幾度となく罪を重ねる罪人のはずなのに、人々から聖人だと言われるほどに慈悲深い人格者として存在するバルジャン、そのバルジャンに救われてしまった自分の命、その矛盾に耐えられず死んでしまう。自分を曲げられないジャベールがとても好きだと思った。

そして革命を指揮していた学生アンジョルラスや大人顔負けの強かさで必死に生きた少年ガブローシュが、そして多くの仲間たちが次々と死に絶えていく中、なんとか生き延びたマリウスをバルジャンが助け出す。

一人生き延びたことに悲嘆するマリウスと、献身的に看護するコゼット。ふたりの姿を見て、バルジャンはマリウスにだけ自分の過去を告白しコゼットを託して姿を消す。
そしてふたりは結婚をする。マリウスは大勢の祝福を受ける中、自分の命の恩人がバルジャンだと知りコゼットとともにバルジャンのもとへ。

死を待つバルジャンの前にファンテーヌとエポニーヌの魂がやってくる。駆けつけたマリウスとコゼットに、自分はコゼットの父親ではないと告白の手紙を渡し、ファンテーヌとエポニーヌに導かれ天に昇っていく。手紙を読むコゼットとマリウスを死んだ者たちが天から幸福を祈り祝福をする。

序盤、コゼットとマリウスの役割がいまいち掴めなかったのだけど、最後まで見るとわかってくる。コゼットは弱き者で無知な者、マリウスは青臭く若き者、新たに時代を担っていく者。そういうか弱く柔らかな存在が、虐げられることなく幸福を得られる世界になっていく、交代していく世代への願いの物語なんだろうなと。幸福や祝福の象徴として結婚の描写があると、良い悪いは別として何となく古典作品だなあと思う。
だからこそ思うのだけど、コゼットとマリウスってめちゃくちゃ難しい役じゃないか?ジャンバルジャンからも、観劇にきているお客からも、護りたい、愛さずにはいられないと思わせる魅力を表現しないと、それができないとすごくつまんないキャラクターに見えてしまう。
私は単純なのでわかりやすくジャベールとエポニーヌとファンテーヌが好きになったし、彼らの死に様にはうるっと来た。

あとミーハーな感想としては、以前シアタークリエの10周年記念コンサートで歌を聞いて良いなあと思っていた伊礼彼方さんを見られて嬉しかったのと、デビュー曲が大好きな昆夏美さんのエポニーヌを見られて嬉しかったのと、テニミュぶりの三浦宏規くんの歌がものすごく上手くなっていることにびっくりして楽しかった!
長年愛され続ける歴史あるミュージカル、一度ではなかなか受け取りきれるものではなかったのでまた再演されるのなら見に行きたいなあと思う。

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