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キンキーブーツ 2019 観劇感想

2019年4月25日、東急シアターオーブにて、キンキーブーツを観劇。

あらすじをざっくり読んで知った程度で見に行ったのだけど、ものすごく楽しかった。超満員の客席のどこもかしこも楽しそうで熱気にあふれていてワクワクした。FNS歌謡祭でのパフォーマンスを見て、これはショー要素の強いエンタメミュージカルなんだろうなと思って見にいけてたのも良かったのだと思う。
以下ネタバレ感想。

 

キンキーブーツのストーリーをあまり深く知らないで見ていたので、最初は少しビリーエリオットに似た雰囲気を感じた。かつて栄えていたけれど、時代に取り残され寂れていく町の中で夢にもがく主人公のはなし。ざっくりは似ていたものの、舞台作品としてはまるで違っていた。

一幕序盤、幼少期のチャーリーとローラのシーン。それを見ている瞬間はよく掴めなかったのだけど、ストーリーを追って見ていくうちにこのシーンは類似と対比の表現なんだなあと分かった。
幼いチャーリーは父親に一番美しいものは靴だと刷り込まれ、問われれば父の望むように「(一番美しいものは)靴だよ!」と答えるけれど、それはチャーリー自身の考えでなく父の言葉の、父の考えのトレースでしかない。明るく響く声の中にチャーリーの意志はない。
幼いローラは真っ赤なハイヒールの美しさに心奪われ、ハイヒールを履いて楽しげに踊るけれど、父親にひどく罵倒されて脱いでしまう。父親の望む、男らしく強くなるためのボクシングをすることになる。

ど派手なショーシーンの楽しさが目立っている分だけ、静かなシーンも引き立っていた。
全体としてはエンタメにガツンと振り切ったミュージカルだけど、チャーリーとローラが互いに父と歩み寄れないまま大人になってしまった子供同士なんだと、どこが共鳴し合ったのかきちんとわかる。こどもは親のものではないから自分の望むように生きて当然なのだけれど、親の望んだように生まれて育ってあげたかったという思いに駆られるこどもの悲しみはどうしたら昇華されるんだろうと思ってしまった。

一幕の最後のベルトコンベアーで踊るシーンものすごく楽しかった!楽しい歌と目まぐるしくフォーメーションを変えながら動き回る目にも鮮やかなパフォーマンス!再起をかけたキンキーブーツの第一号完成に歓喜するストーリーの盛り上がりにふさわしいアガるシーンだった。

ドンとローラのシーン。ドンはわかりやすく想像力のないダメ男だったけれど、口先だけ理解者になったような言動をしたチャーリーよりもずっと素直な男だなあと思った。実際にローラの優しさに触れて、見ず知らずの奇っ怪な男ではなくローラという人間を見られるようになった。それがチャーリーをも救うきっかけになっていく。
ローラ自身に全く偏見がないとは思わないけれど、それ以上に多くの偏見を浴びて傷ついてきた彼女が「あるがままの他人を受け入れろ」と言うのは、自分自身もそのようにあろうとしてきたんだろうなと思う。それはドンとの問答にあった男らしい振る舞いというより、人としてあるべき振る舞いなのだと思う。

チャーリーは父の呪いから逃れられず見栄をはり、焦りから周りが見えなくなって、従業員をはじめとする周囲の協力者に、何より一番の理解者であるローラにひどくあたってしまう。
このシーン、チャーリーがローラに向けて言っていることが、彼が一欠片も思ったことのない罵倒であればなんてことなかったんだけど、チャーリー自身が思ったことのある偏見まみれの差別的罵倒なのがとてもキツかった。一般論や世間の目線を装って、そう見ていた事があるのだと、理解者だと思いあった後にこんな形でぶつけてしまう事が悲しかった。

ローラが老人ホームの慰問公演で歌っている姿、とても美しくて悲しげで胸が詰まった。ローラが老いた父の肩に手をおいて、静かに愛してると言う姿、親の望むように生まれて育ってあげたかった悲しみが、それをそのまま受け入れてやれなかった父の悲しみがようやく互いに重なったのは、良かったなあと思う。

その後はもう都合が良すぎるくらいのハッピーエンド。ミラノの品評会にモデルが用意できず自分でキンキーブーツを履いてヨロヨロとステージを歩くチャーリーに、ローラとエンジェルズがさっそうと現れてピンチのチャーリーを救い出す。正にハッピーエンド、眩しくて鮮やかで誰もが目を奪われるような幸福の瞬間、きっと彼らにとって一番美しく輝かしい幸福の頂点でバツンと切り取り幕を下ろすエンタメミュージカルだった。

個人的な好みの問題なのだけど、ハッピーエンドの作品って見た後少しさみしくなる。不安になるというか、夢から覚めちゃったみたいで。幸せの絶頂のその先を想像するのはけっこうこわいことだ。それでもグルグル頭を悩まさずにパッと気軽に見に行って元気をもらって帰ることができる楽しいミュージカルだった!

普段ドラマとかもあまり見ないので三浦春馬くんの演技自体をあまり見たことないのだけど、彼を好きになってしまうミュージカルだった。自分が自信を持って存在するために自分の憧れる美しい姿であろうとするローラの姿勢がとても好ましくて、眩しくて、時折のぞかせる弱さや脆さが切なくて。幕が下りたあとの世界が少しでもローラにとって素晴らしいものであればいいなと思った。

しかし、平日の昼公演で3階席のてっぺんまで超満員で、歓声も拍手もスタオベも熱狂的なミュージカルって単純にすごい。また再演されるのなら、見に行きたいと思う。