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私の内包物をつれづれと

タクフェス第6弾『あいあい傘』観劇感想

2018年11月11日、サンシャイン劇場にて『あいあい傘』東京公演千穐楽を観劇。
以下ネタバレ感想です。11/16ストーリー部分の感想を追記しました。

※頂いたコメントへの返信を末尾に付け加えました。

 

夫婦になることはあいあい傘で歩くようなものだと言う言葉が劇中にあった。それは一見しあわせそうだけど身を寄せないと肩は濡れるし好き勝手には走れない。一人でなら自由に好きなところに行けるけど、あいあい傘をしていたら大変なときでも二人で歩かないといけないという意味合いだった。
父親に蒸発されたさつきと、父が本当の家族に思いを馳せている姿を目近で感じている麻衣子は、傘を二人でさす幸福も一人でさす幸福も得られずにいるのだなあと感じた。一人で壊れた傘をさし、雨に濡れながら生きてきたんだなあと。
さつきが湧き上がる感情に翻弄され震えながらどうしてと叫ぶ、泣き叫びながらそれでも落ち着こうと、思考を整理しようとする姿が、一番目に焼き付いている。どうして自分と母の不幸を知らずにのうのうと生きているのか、どうして不幸なのは私のはずなのに幸福なはずの麻衣子が不幸な顔をするのか。叫ぶさつきは迷子の子供のようだった。
本当は復讐したってよかった。子供の頃から今まで25年間ずっと苦しくて、今だってその傷口から血が吹き出てるくらいに痛くて、そればかりの人生なんだから。それでも本気で復讐なんてできなくて、優しくて不器用で愛を乞うのがあまりに下手で、割に合わないよなあと、彼女の痛みを思うと泣けて泣けてしかたがなかった。さつきに対して父親は死んだと言い聞かせてきた母親もまた不器用なひとなんだろう。
玉枝さんと麻衣子が本当にのうのうと幸福を甘受していてくれれば、さつきは自分と母をかわいそうだと思うことができたのだろう。自分たちをただ単純に被害者で、加害者である彼女たちは自分たちと同じ苦しみを味わうべきと真っ直ぐに思えた。怨みに任せて同じ不幸を味合わせることだってできたかも知れない。でも、さつきは自分が壊れた傘をさして濡れながら生きているのと同じように、麻衣子も壊れた傘をさして生きているのを受け取ってしまうくらいに優しい。優しいから父親と麻衣子たちの幸福を願って、身を引いてしまう。

六さんはとてもいい人で、本人が望む望まないに関係なくとても愛されてしまう人なんだなあと思った。本能的に愛を乞うのが上手い人なんだろう。死のうとすれば誰かに手を差し伸べられてしまうし、雨に濡れれば、たとえ自分を罰するように雨に濡れたくても傘を差し出されてしまう。愛されてしまうと拒絶できない所が、情にもろくて悲劇的な人だ。
六さんは一見するととても家族を捨てて来たような人に見えないし、今の家族に不義理を働いて不和を生じさせてるようにも見えない。変な話、25年前の六さんって自殺志願者の不審者だったのに、今じゃ塾の先生で住民から慕われる存在になっている。
知らず知らずのうちに本人に抱えきれないくらいに愛されてしまうから、ボロボロとこぼれ落ちてしまうものも本人が自覚する以上に多くあるんだろう。こぼしたいわけでなくとも。そうしてこぼれてしまったのがさつきであり、奥さんで、だからこそ悔いが残り続けてしまうし、情も募る。
麻衣子はそういう父親の性分をわかっているから、次にこぼれ落ちるのは自分たちだと思うし、防衛本能が働いて、どんどん父親と認められなくなっていく。父親だと認め愛した人が本当の家族の元へ帰っていく時の痛みに耐えられるように。

玉枝さんは諦念の人という印象を受けた。六さんみたいな悲劇のヒロインタイプを支えるにはこういう人が必要だったんだろうなと思わせる大らかで明るくて凪いでいる人。車海老さんを使ってさつきを探したり、実際にさつきと対峙したときの態度を見ると、審判を待つ心持ちだったんじゃないか。さつきの抱えるどんな感情も受け止める覚悟を、六さん以上に持っていた。

さつきと麻衣子が、一人で生きる幸福も、誰かと家族になって寄り添いながら生きていくことにも希望を見いだせないという親からの呪いを、きっと断ち切っていきていけるのだろうという希望のあるラストだったのは良かったけど、麻衣子と船田くんが結婚に踏み切るのはあまりに極端でびっくりした。地域性と元々11年前に上演された作品の再演ということを考えれば変ではないのかもしれないけど、結婚=幸福という考え方が自分にないので余計にこの極端さが心配になった。ふたりとも親と同じ轍を踏まないように自分にあった幸福が得られるといいなと思う。トラウマは簡単に消えたりしないから。

ここまでがあいあい傘のストーリーと役者さんの演技に対する感想です。
ここから先はほぼ演出面での愚痴で、あまり気持ちの良い感想ではないので純粋に楽しかったという方やファンの方は読まないほうがよいと思います。

タクフェスさんの舞台を今回初めて拝見し、全く肌に合わないということがわかったので、今後やむにやまれぬ事情が発生しない限り見に行かないだろうなという学びを得た。星野真里さんへの好感度は爆上がりしたので彼女の出る舞台は今後見てみたい。
こんな感想というか愚痴はあまり出ていないのかな?と思う。既存のファンの方で満員で笑い声がたくさん上がってたから、おそらく既存のファンの方にとっては正しく楽しい舞台だったんだと思う。なので、ただただ私にとって、個人的に好きじゃない没入感の希薄な舞台だった。
今日が東京千穐楽だったのも悪い方に作用してたと思う。開演前にキャストの方がお客さんにサインや握手や2ショット撮影などを対応されている時、東京千穐楽だからキャストもテンションがおかしい、いろいろ起こるだろう的なことを舞台上でマイクを通しておっしゃっているのを聞いて嫌な予感はした。もっと序盤や中盤の日程で行けてたらもう少しマシだったのかなとも思う。でも私は今日しか日程的に合う日がなかった。あまりに劇のストーリーに集中できなくて、正直目当ての役者さんも2名ほどいたのだがたいして注力して見ることができなかった。
具体的になにが合わなかったかというと、ストーリーに関係ないウケ狙いのアドリブ、内輪ネタ、役ではなく役者本人の自虐ネタ。
ストーリーに無関係な、役者本人がむき出しのアドリブによってどれだけ話の腰が折れたことか。私は1度しか見る機会がないからしっかり話を追いたいのに、複雑骨折しまくりでせっかく感動的な話も中だるみしていたし、どれがストーリーに準拠したやりとりでどれが不必要なやり取りかを脳が判断することを拒絶しだしてぼんやりしてしまった。あと自分のことでも他人のことでもディスって笑いを取ると言うこと自体が、ウケると思っていること自体が鳥肌が立つのでお金払って見たくない。それとも映画版でも同じ役の人は同じような自虐を役としてされているんだろうか。
舞台って役者の役解釈やストーリー解釈を発揮する場所じゃないのかなあ。私はそれを見に行った。ひどい言い方をすれば役者本人を見に行ったわけじゃない。演じる役をどう解釈し、どう表現して、客にその役をストーリーとして渡してくれるのかを見に行ってる。だけど私にはそれをしてもらえなかった。
星野真里さんだけが唯一の救いというか、彼女はずっと集中を切らさず高島さつきという役のまま居てくれた。好き勝手アドリブをして客席に降りていつまでも戻ってこない相手役、本来彼は彼女の唯一無二の理解者で協力者ではないのか。舞台上で彼女だけが役を保ち続けてて、その場面ほかにも役者は立っているのに一番孤独に見える瞬間だった。
グチグチ言ってしまったけど、チケット代8000円と各種手数料と交通費と自宅から劇場までの遠い道のりを行く時間、それをかけて見に行って見たのがあのアドリブ合戦か〜と思うと本当に悲しい。星野真里さんと永島敏行さんが役をきちんと全うしてくれてたからそこは泣けたけど、あとはひたすらぼうっとしてしまった。
これは私個人の感想で、私個人の好みの問題なのは重々わかっている。冒頭にも書いたけれど、会場全体から大きな笑い声がたくさん響いてきて、熱い拍手がたくさん沸いて、笑顔があふれていたのは事実だから。エンタテインメントが提供する娯楽性は多種多様であるべきだと思うので、単純に私には合わなかったなあと思った。けど合わなかったなあで済ませるには、チケット代と交通費と休日一日はでかい代償だった。あと私の性格が悪いので、ああ新規の顧客を必要としていない舞台なんだなと思ってしまった。
今日の観劇で自分がどういう舞台が好きなのか少しわかった気がする。舞台のチケットを買う時、この作品はストーリーに無関係なアドリブがたくさんありますとか注意事項として乗ってたらいいのになあ。まあ冗談だけど。劇団や作演出の方からそういう傾向をひも解いていくしかないんだろう。勉強になりました。

通りがかりさん、コメントありがとうございます。“多くは、アドリブのフリをしながら演出で決まった小ネタのようでした。”というコメントを拝見し、アドリブという言葉ではなく日替わり演出と表現すべきだったなと思いました。日替わり演出自体は悪いことでもなんでもないですが、それがストーリーにきちんと繋がりがあり意味が生まれるものでないとあまり楽しく感じられないタイプなので、やっぱり好みではないなあと改めて思いました。通りがかりさんもきっと、好きな役者さんがどうやってこの世界の中で生きるのか、その表現をきちんと見たかったですね。心中お察しします。次は素敵な観劇になりますように。

a.yさん、コメントありがとうございます。私の書く感想を好きだと言って下さり、また以前に書いた記事への感想も頂けてとてもうれしいです。観劇をして伝わってくる事、感じる事は様々あるはずなのに愚痴だけ書いて終わりにするのは確かに役者さんたちに失礼だなあと思い直し、今思い起こせる感じた事を書いてみました。あまり注力できず大体の部分でぼうっとしてたので、星野さんの熱演のところ中心ですが、a.yさんの仰る通り心動かされる素晴らしい演技が確かにそこにあったと書き残せたのは私にとっても良かったです。ありがとうございました。