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プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE Episode5 観劇感想

2018年6月3日、シアター1010にて舞台プリンス・オブ・ストライド エピソード5を観劇。以下ネタバレ感想です。

観劇した時点ではネタバレ禁止とされていたので、きちんと言語化をせずにいたらボロボロといろんな素晴らしい光景たちが零れ落ちてしまっていて、何とか少しでもこのポンコツの脳みそに留めておくべく今更ですが感想を書いておこうと思います。プリステ1見た後に感想を残さなかったことを割と後悔しているので。
プリステ2・3・4の感想はこちら

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以前のプリステ感想記事、ぽつぽつと読んでくださっている方がいるのでもしかしたら今回もプリステやプリストのファンの方がお読みになるかもしれません。別作品でのたとえ話とかをしているので、ご不快になったらサッと回避してください。

プリステEp5観劇後に一番最初に思ったのが、漫画のテニスの王子様が終わった後に新テニスの王子様が始まったみたいだな、というものだった。
テニスの王子様は旧作だと学校別での戦いで主役校の青学が優勝するところまで描かれていて、新テニスの王子様ではU-17の選抜大会に各中学校から選ばれた選手が集い、かつて対戦校だったライバルたちと新たにチーム編成されて世界と戦っていく。
テニスの王子様は、旧作で学校別のチームとしての在り方やチームとしての勝利を中心に描かれてきたテニス少年たちが、個人としてどうテニスに向き合い生きていくのかが描かれている作品だと思っている。旧作での作中最大の是として表現された主人公越前リョーマの「テニスって楽しいじゃん」という天衣無縫なテニスとの向き合い方を、新テニスの王子様では唯一の答えではないとある意味で否定していて、「楽しい」以外のテニスとの向き合い方もすべて是であると描いている。
プリステEp5もチームから離れた時に、個人としてどうストライドと向き合うのかが描かれているように感じた。だからこそ、その芯がぶれることのないキャラクターが眩しく見えたし、迷えるキャラクターが答えを導き出す姿を応援したくなった。プリステってものすごく少年漫画的というか、スポーツ漫画のような熱い作品だった。

今回のストーリーで一番印象的だったのは、石動がランナーたちにギミックをどう越えて進むかを問いかけたシーン。ひとりひとり、自分が考えうるルートでギミックを超えていく。その全てが間違いではなく、すべてが正解だが、強さを求めるなら自分にしか見つけられないルートをたどれと指導した。ストライドという競技での、メンタル・フィジカル・テクニック、そしてそれを束ねる思考力、全てにおいて高い位置になければ実現できないことであり、例えばこの先ストライドから離れたとしても、どう生きていくのかということに必要な指導だったのかなと思う。誰にでも見つけられる道は誰もが通りたがる道で、他人との競争も激化するが、自分にしか見つけられない道であれば余計に誰かと競うことなく自分を見つめながら目的地まで進める。一見遠回りに見えても、誰もが通りたがる道を進むよりも早く確かに目的に近づけるかもしれない。それは強者にしか許されない道だなあと思った。自己が確立していなければその選択をするのは難しい。誰のせいにすることなく、自ら信じられるだけの自分でいなくちゃいけない。

持つもの持たざる者の選択や、100%本気になれる人とそうでない人、持たざる者の劣等感からの脱出とか、己の納得や思いの強さと勝敗は比例しないこととか、いろいろ考えてはグルグルとしてしまった。観劇後にすぐ文章化を試みたら、もしかしたらもう少し答えが出せたのかもしれない。

天才や強者というのは、自分ができることのレベルを無意識に相手にも求めてしまうがゆえにある程度傲慢な生き物だと思っていて、求めても応えてもらえることの方が少ないからきっと孤独になりがちなのだろうとも思う。
花京院の八神巴くんは長男だからと理由をつけてパン屋を継ごうとしてストライドと距離を置いたように見えたけど、結局はパンを焼いてたって寝ても覚めてもストライドが頭を占めてしまう。自分がストライドに100%だから、そうじゃない人といるとストライドをすること自体が虚しく思えてしまう。弟の陸に対しても誰に対しても、迷ってる暇が何であるんだと思ってしまうのだろう。
でも陸くんにとったら自分より何もかも格上と思っている天才の兄が、長男だからという理由でストライドを諦めたように見えたら劣等感から逃れる術が見つけられなくても仕方がないと思う。その劣等感が、陸くんに負けてしまった100%本気でストライドと生きている兄を傷つけたとしても。
椿町の颯田くん、すごく態度や口は悪いんだけど間違ったことはあまり言ってなくて、彼もまた能力が高いゆえに能力の高い人が好きだし、努力することは当然で、迷ってたり立ち止まってる奴はなんて愚鈍で無為なことをする馬鹿なんだと思ってるのかな。翻訳せずに自分の言葉が通じる人を好きなのって本能的な好意だし、藤原くんを猫かわいがりする理由も同類だと思ってるからなのかも。一条館の堂園と同じく見てると本当にムカつく野郎なんだけど、颯田くんには颯田くんの信念があって生きているのもよく分かった。
私は桜井奈々という少女を強者側の人間だと思っていて、だからある程度傲慢だとも思っていたし今でも思ってるんだけど、プリステ5での彼女の迷える姿を見てEp1からEp4での強さがリセットされたように感じた。けれどそれもまたひとつの彼女を構成する一部なんだろうとも思った。当初は彼女も悩んだり迷ったりしていたはずなのに、私自身がEp1からEp4で強い桜井さんに慣れすぎてしまっていた。変な話、前作までの桃瀬さん演じる桜井さんなら、自身の信念と異なるリレーションをする戸丸くんに対して真っ先に話し合いましょうってガチンコ勝負しかける気がする。
藤原くん同様にU-18に選ばれていたのに、陸くんに気を使って辞退した彼女は陸くんを庇護対象として見ていて、憐れんでいて、それでは陸くんの声は聞こえなくて当然だった。そこからきちんと立ち直る、過ちを認めてまっすぐに謝ることができるのが彼女の強さでもあるんだろう。私がEP1からEp4で見ていた彼女の強さは、3人でいたから、方南でいたからこそ、眩しく目に焼き付くようにそこにあったんだろうな。迷える桜井さんを見た瞬間は少し残念だった。彼女には優勝校のリレーショナーとして堂々と強くあって欲しかった。巴くんが陸くんの卑屈さを見て悔しがったように、敗者側からしたら自分たちに勝ったやつの情けない弱々しい姿なんて見たくない。私は負けた子たちにどうしても思い入れが募る分、勝者としての強い姿でいて欲しかった。あと、Ep4で莉子が桜井さんのことをプリンセスじゃないと否定したシーンが好きだったから尚更、凛々しくて強くてかっこいい女の子でいて欲しかったのかもしれない。
藤原くんは迷いの中にあっても前に進み続ける意思を表していて、3人の中で一番100%になれる人なんだろう。チームが分かれて、くすぶっている陸くんと桜井さんをきっと理解はできなくて、今の2人を好きかと問われてわからないと答えたところがすごく彼らしい素直な不器用さで。わからないってことは嫌いになれないってことだし、そんなのはもう答えが出ている。いじらしいなと思った。

市場の戸丸くんが本当にすごくすごく好きで、強者の傲慢に屈しないように必死になっている姿が苦しくて泣いたんだけど、一番悲しかったのが桜井さんが強者ゆえになのか戸丸くんの気持ちを汲み取れなかったこと。最後の最後まで本当の意味で汲み取れてはいなかったように感じた。たぶんここは人によって解釈分かれると思うけど、私はそう思った。
戸丸くんの勝利への執着と合理的なリレーションも、桜井さんのみんなの気持ちが繋がるストライドへのこだわりも、どっちも間違いではなくて、でもどっちもそれだけじゃ勝利にたどり着けない方法だったから、ふたりが理解し合えないながらも話し合い歩み寄ったことが可能性を広げたんだろうと思う。
桜井さんの無神経な一言に、負けたチームは想いが弱かったのかと返す戸丸くんの、怒りと悲しみと悔しさと、EOSでの勝利から突き放されて置いて行かれた寂しさが色鮮やかで、新ジャージは赤と黒なのに、市場高校の紫のジャージで泣き崩れたあの姿が浮かび上がってくるようだった。クールなのは外側だけで内側は先輩たちと同じように熱い子なんだよなあと思った。本当は先輩たちと一緒に勝ちたかった、潰えたその夢が少しだけ叶うかもしれないチャンスを、どうしたってもぎ取りたかったんだろう。
三橋の鴨田慶くんは迷いがない振る舞いができて強いなあと思い、人の心を汲み取るのが上手い優しい子だと思った。責められるべきではない戸丸くんが責められたとき真っ先に反応したのが彼だった。黒ジャージ組の中で一番理性的に見えて、でも誰より勝利に飢えてて、胸に秘めた激情が見え隠れして、かっこよかった。姫との対決、めちゃくちゃ見応えがあった。
姫を中心とした一条館の心のあり方が好きだった。姫はなんというか慈愛の人だった。自分の心に迷いなく進む者であれば、等しく接する人。蜂と鮫に厳しく接したのも、向かってくる意思を嬉しく思ったのに実際対戦したら本人たちに迷いがあったからで、手段が同じでも本人たちに憂いや迷いがなければきっと肯定したと思うし、だからこそ最後のシーンでお前たちの期待も願いもすべて受け止めてやるとでも言うような姿がかっこよかった。きっと堂園の想いすら受け止めてしまえるんだろう。
数多の想いの重さを背負ってなお、軽やかに真っ直ぐに進んでいく姫の姿は一番かっこいいし、姫のストライドが好きだから応援したいと思うのは必然だと思った。勝利も敗北も姫をより強くすることはあっても変質させることはないんだ。美しくて強い人だった。
姫と鴨田慶くんは敵チーム同士だけど佇まいが似ている感じがした。頭がよく理性的で、何事も人のせいにしない優しいところが。
怜治さまの代表メンバーへの途中参戦は驚いた。彼は相変わらず内側が見えにくい。でも彼がストライドギャラスタも全部本気でてっぺん取る気なのはEp4で知っていたから、ギャラスタだけ100%じゃ全然足りないよなとも思った。ストライドギャラスタも100%でこそ諏訪怜治なんだろう。彼の内側が見えにくいのは、彼の思い描く諏訪怜治像を演じているからで、人前でなく静馬といる素の状態の時は案外見えてくるものがある。やっと静馬への罪悪感から離れて、まっすぐにストライドに100%になれる時が来たのかもしれない。U-18だから、年齢的にどうしたって静馬のリレーションでというのは叶わないけど、静馬の導きでストライドギャラスタも100%になれる。本当にこの二人はいいパートナー同士になったんだなと思った。

プリステEp1からEp5まですべて通して生で見ることができて本当に楽しかった。
ストライドという架空の競技を本物に押し上げる役者さんたちの技量、ドラマティックな映像や音楽や光の演出、ステージギミックの多彩さ、それを自在に操るシールドランナーの方々の技術、どれをとっても美しく見ごたえがあった。もう5回見ているのに毎回新鮮に驚きと歓喜が沸いてくる。プリステは再演しようとしてもなかなか難しい作品だろうから余計に一期一会だと思うし、出会えた幸福をかみしめたくて、後からでも思い返したくてこうして感想を書く。熱くてまぶしい最高の夏が終わってしまった。プリステを思い出すたびに鮮やかな光と駆け抜ける風と本気の汗と熱量と荒い息遣いの残像が浮かんでくると思う。
最近本当にいろいろミーハーに舞台を見に行って、素敵な出会いがあるたびそこに導いてくれた役者さんに感謝する。伊崎君と蒼木君につられて見に行って、こんなに熱いストーリーに出会えたこと、幸せだった。
素敵な演劇との出会いをありがとう。